2022年3月24〜25日、フランスにおいて分子カーのレースである「Nano Car Race II(ナノカーレース)」が開催される。約2nmの分子の車を走査型トンネル顕微鏡(STM)を介して操縦し、その走行距離を競う国際大会だ。それに先駆け、物質・材料研究機構(NIMS)において純日本チームであるNIMS-MANA TEAMによる解説が行われた。なお、同大会の様子は開催日に合わせて、ニコニコ生放送で中継される。

  • ナノカーレースII

    説明会の様子。現地開催もあったが、今回はスケジュールの関係でオンライン参加となった

ナノカーレースは、分子の動きを理解・統制する研究を加速させるための科学的な挑戦として開催される。分子の動きについては基礎研究段階であり、まだ何に使えるか分からないものだが、分子制御技術が発展すると、エネルギー貯蔵システム、新素材の開発、省電力コンピューティング、新しいセンサー技術、大気環境改善技術、分子レベルの医療技術に関わるかもしれない。

第2回大会も同様の目的で開催され、24時間の耐久レースになる。世界的な事情もあるが、今回の会場はフランスにあるCEMES-CNRSのLa Bouleで、La Bouleに設置されたパソコンから、各チームが所有するSTMを遠隔操作する。分かりやすいものでは、地上から宇宙空間、もしくは月面にあるハードウェアを操作するに近い状況であり、新しい課題が見つかる可能性もあるだろうとのことだ。なお、コースは金表面。

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    ナノカーレースIIについての説明

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    日程と開催地。かつて電子顕微鏡があった場所で、レトロフューチャー的なオブジェクトは電子加速器とのこと。カワイイ

参加するチームはレギュレーションを満たした8チーム。その1つがNIMSのチームで、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)副拠点長の中山知信氏が率いるNIMS-MANAになる。またFranco-Japaneseチーム(ポール・サバティエ大学/フランス、奈良先端科学技術大学院大学)は合同チームであり、日本からは実質2チームでの参戦の形だ。以下が参加チームになる。

  • NIMS-MANA チーム(物質・材料研究機構/日本)
  • GAzE チーム(ドレスデン工科大学/ドイツ)
  • Ohio Bobcat Nanocar チーム(オハイオ大学/アメリカ)
  • Franco-Japanese チーム(ポール・サバティエ大学/フランス、奈良先端科学技術大学院大学)
  • Stras Nanocar チーム(ストラスブール大学、CNRS/フランス)
  • Rice-Graz Nanoprix チーム(ライス大学/アメリカ、グラーツ大学/オーストラリア)
  • NANOHISPA チーム(IMdea Nanosciencia/スペイン)
  • SanCar チーム(ドノスティア国際物理センター/スペイン)
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    レギュレーション。スポンサーを獲得とあるが、努力目標であるようだ。NIMS-MANAはTOYOTAのスポンサードを得ている

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    各チームのナノカーの形状がわかるものだが、最新のものではないそうだ

ナノカーのサイズは約2nm

ナノカーから見ていこう。レギュレーションでは分子数100〜1000程度を決められており、また前後が分かる形状であることとされている。これはレースであるわけで、選択的にどちらに進もうとしたか分かるとよいといった理由になる。また「車」とするならばタイヤや車輪に相当するものが必要だが、各チームのデザインを見ると、多くが接点を減らすためにタイヤ的な構造を持つ。ただ車輪として機能する必要はなく、金表面にくっついてしまうのをどうやって回避するかが、各チームの課題といえる。

一方、NIMS-MANAのナノカー「Slider-Spider」は、ぺったんこである。ときおり車両改造でお目に掛かるシャコタンをさらに突き詰め、金表面と接触する形だ。一見すると、動かないのではと考えてしまうが、NIMS-MANAは構造による超潤滑現象に着目。金表面との間に生じる摩擦を減らせるとしている。詳しくはこちらの記事を参照されたい

参考:物質間の摩擦が非常に低い「超潤滑現象」をグラフェンで観察 - JSTさきがけ

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    Slider-Spider。正式名称:5-([9,9'-bianthracen]-10-yl)-15-(anthracen-9-yl)-10,20-bis(trifluoromethyl)porphyrin、原子の個数:109個、分子式:C64H34CuF6N4、分子量:1036.54。黒がカーボン、白が水素、緑が窒素、青がフッ素、中央にあるものが銅原子になる

Slider-Spiderは、7ステップを経て生成され、生産効率は0.2〜0.5%だという。上記はSTM内において、金表面にマウントした状態であり、それ以前はやや異なる形状で、変形するナノカーでもあるそうだ。そのためには真空中で加熱する必要があり、約2日かかるとのこと。レースは金表面にナノカーが準備できた状態からスタートであるため、事前セッティングとして認められ、レースへの影響はないという。

実際にナノカーを制御するSTM。原子レベルまで細くした探針をギリギリまで近づけ、トンネル電流を利用して、形状や性質を探るというのが主な用途だ。指でなぞって形状を探るような機器で、探針の先端は分子1個ほど。分子は0.1nm〜0.2nm、その少し上からトンネル電流で、凹凸がわかるというわけだ。ナノカーレースでは、仕組みを利用して探針から電圧をかけ遠ざけたり、近づけたり、または励起させて部分的に振動させるなどのモードを利用して、ナノカーを移動させていく。ちなみに、リアルタイムで分かるのではなく、1アクションごとに走査するため、ナノカーレースでも映像ではなく、1枚ごとに位置を見ていくことになる。

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    本レースで使用されるSTM (提供:物質・材料研究機構)

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    STMの仕組み

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    実際にナノカーが動く様子

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    STMの探針。この先端に試料がセットされる。ちなみにSTMは1台ごとに形状や構造が異なっている。第1回大会で使用されたSTMには、探針が4つあるタイプだった

Nano Car Race IIの様子は、ニコニコ生放送において、NIMSによる解説付きで放送される。24時間の長丁場となるレースだが、肉眼では見えない世界のレースを楽しんでみてはいかがだろうか。