既存のサービスを単にデジタル化するだけではなく、新たなかたちで利用者のニーズを満たしたり、社会的課題を解決したりして付加価値をもたらす——こうしたDXの波は金融業界にも訪れている。

2月17日に開催されたTECH+スペシャルセミナー「DX推進から金融業界を変革する〜『業務効率改善』と『新規事業創出』の口火を〜」で、金融庁 総合政策局総合政策課フィンテック室 参事官 三浦知宏氏が、金融のデジタル化の状況と金融行政について解説した。

  • 金融庁 総合政策局総合政策課フィンテック室 参事官 三浦知宏氏

非金融プラットフォーム、フィンテック企業の参入による変化

これまでの金融サービスは、金融機関がフルラインで提供することが一般的だった。利潤は薄いが品揃えの確保を目的としたものから利潤の高いものまで、多様な商品・サービスを揃えており、それらを提供するための店舗網、システム、バランスシートが重要視されてきた。

しかし、近年は、非金融プラットフォーム、フィンテック企業がプレイヤーとして金融業に参入するケースが増えつつある。決済や投資、保険などの一部機能をフィンテック企業が担い、非金融プラットフォームがそれらを顧客へ提供する形式へと変わってきているのだ。こうした状況においては、店舗網、システム、バランスシートよりも、AIやスマートフォン、ビッグデータなどの重要性が高まる。このような背景を踏まえて三浦氏は「デジタル化が進むことで『早い・速い・安い・楽』になったが、これらに加え、プラットフォーム化、パーソナライゼーション(個別化)、行動変容という特徴を有するサービスが出てきている」と指摘する。

プラットフォーム化とは、非金融事業者の顧客接点を介して金融商品が提供されることを指す。この場合、顧客接点があり、より良いUX/UIを提供できる組織が強みを持つ。家計簿アプリなどはわかりやすい例だろう。AIやビッグデータを活用したオーダーメイドの金融商品・サービスが登場することによる個別化も進む。また、金融サービスを提供するだけでなく、カーボンニュートラル、地方創生など、社会課題を解決するための金融という観点から、消費者の行動変容を促すような事例も出てきている。

デジタル化に対する金融行政と金融サービス事業者の在り方

こうしたなか、行政に求められる役割は、企業・経済の持続的成長と国民の厚生の増大を目指し、イノベーションの推進と利用者保護を高いレベルで両立することである。金融庁は2021年8月、「金融行政方針」を公表した。レポートでは、新しい金融形態に対応できる規制の検討、利用者保護上の新たな課題の克服、本人確認の徹底などが課題に挙げられている。さらに、イノベーションを起こしたい事業者へのサポートや、利用者利便の向上、社会問題解決に資するサービスの提供もポイントとなる。

一方で、事業者側は、コロナ禍の非対面ニーズに対応するためにも、経営戦略としてデジタル化を位置付けることが重要だ。

「デジタル化を進める上で大切なことは、デジタル化自体を目的にしないことです。誰に対してどのような付加価値を提供したいのか、何を狙っているのか明確にしておかなければいけません。それぞれの状況・ビジネスモデルに照らし合わせて、本当に必要なことをやるべきです。

そして、最も重要となるのが、経営者が本気で取り組むことです。デジタル化は経営戦略の一つに位置付けて進めていくことが求められています。『上に言われたからデジタル化しなければいけない』などと目的意識なく現場が押し付けられているような状況を作ってはならないのです」(三浦氏)