新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染の有無をPCR検査や抗原検査を用いずに、唾液から簡便に判別できる可能性のある技術をオーストラリアの医学研究所QIMR Berghofer Medical Research Instituteを中心とした研究チームが開発したと、研究チームの一員であるアジレント・テクノロジーが発表した。

同成果は、QIMR Berghofer Medical Research Instituteのほか、Agilent Technologies Australia、The Prince Charles Hospital(プリンスチャールズ病院)、The University of Queensland(クイーンズランド大学)などで構成される研究チームによるもの。詳細は、国際学術誌「Biomedicines」に掲載された。

同手法は、アジレントのFTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外線分光法)「Agilent Cary 630 FTIR 分光光度計」を用いて、新型コロナの感染に対する病態生理学的反応を調べるというもの。具体的には、エタノールと基本的なラボ機器だけで迅速かつ簡単に実施できるサンプル前処理の後に、唾液サンプルの赤外線スペクトルを減衰全反射(ATR)法にて取得するというもので、PCR検査や迅速抗原検査などの検査技術とは異なり、病原体や抗原自体を検出するのではなく、体内の病態生理的反応を分析するため、同メソッドはウイルスの変異に対する堅牢性が高いと考えられるという。

QIMR BerghoferのPrecision and Systems Biomedicine Research Groupの責任者で、今回の研究の主任科学者の1人でもあるMichelle Hill准教授は「エタノールによるシンプルな汚染除去手順を適用し、自己採取の唾液サンプルを生体にとって安全に扱えるようにしました。あらゆる検査においてきわめて重要となる基本的なステップは、臨床現場以外の環境でも使用できる可能性を有することです。こうした環境としては、遠隔地のほか、大勢の人が迅速検査を必要とする状況、たとえば空港や競技場などが挙げられます」と、今回の手法の有効性を説明しているほか、「新型コロナの唾液検査を対象としたATR-FTIRに関するこれまでの研究は、唾液検査手法の生物学的基盤という点で、決定的なものではありませんでした。私たちはこの側面を明らかにするため、細胞およびマウスのモデルで感染制御実験も実施し、最も特徴的な新型コロナのポジティブスペクトル特性を確立しました。in vitro細胞研究、in vivoマウス研究、ヒトコホートの独立した研究から得たデータと、近年の論文から得たデータをまとめ、この手法の堅牢性を実証しました」と、その実用性についても語っている。

また、同じく研究チームの1員であるアジレントの分子分光分析部門の研究開発担当アソシエイトバイスプレジデントであるAndrew Hind氏は、「今回の研究は、ライフサイエンスおよび感染症研究におけるATR-FTIR分光法の可能性を強く示している」と、FTIR分光光度計が新型コロナ感染判断で活用できる道が示されたとしており、今後も新型コロナや感染症研究の分野に対するFTIRの活用に向けた支援を行っていくとしている。

  • Agilent Cary 630 FTIR 分光光度計

    Agilent Cary 630 FTIR分光光度計 (画像提供:アジレント)