大阪市立大学(大阪市大)は2月9日、磁性量子流体におけるスピン流と磁壁の相互作用によって引き起こされる「量子ケルビン・ヘルムホルツ不安定性」の結果、新種の「磁気スキルミオン」が生じることを発見したと発表した。
同成果は、大阪市大大学院 理学研究科/南部陽一郎物理学研究所の竹内宏光講師によるもの。詳細は、物理学のうち原子・分子・光学・量子情報などを扱う米物理学会が刊行する学術誌「Physical Review A」に掲載された。
スキルミオンは、自発的対称性の破れを伴った相転移後に現れる位相欠陥の一種で、ベクトル場中を粒子のように振る舞う位相幾何学的に安定な孤立波とされており、中でも磁性体中に生じる場合は磁気スキルミオンと呼ばれ、その秩序状態を記述するベクトル場に渦状の模様(織目構造)を形成し、その模様を保持しながら並進運動することで2次元空間中の荷電粒子のように振る舞うことを特徴としている。
磁性を持つ冷却原子気体である「ボース・アインシュタイン凝縮体」(BEC)のような磁性量子流体では、本質的な理解の妨げとなる不純物や熱揺らぎなどの影響が近似的に無視できるため、織目構造やスピン流が本来持つ固有の性質を調べる系として優れているとされることから、研究チームは今回、この磁性量子流体の強磁性相における磁壁にスピン流を作用させることで、特殊な織目構造を持つスキルミオンが生成されるかどうかを確かめることにしたという。
その結果、この系ではスピン流の強さに応じて、内部(芯)構造の異なる2種類の磁壁(AF芯磁壁とBA芯磁壁)が実現され、新種のスキルミオンが後者の不安定性によって生じることが数値実験で示されたとするほか、この不安定性はスピン上向きと下向きの領域を2つの流体と見なすと、流体力学で知られる「ケルビン・ヘルムホルツ不安定性」(KHI)の磁性量子流体版と捉えることが可能だとする。
磁気スキルミオンは、KHIの機構により磁壁が波打ったあとに磁壁から放出される。そうして放出された磁気スキルミオンは渦スキルミオンとも呼ばれ、超伝導や超流動で現れる量子化された渦(量子渦)の性質も備えているが、このスキルミオンは磁壁に囲われた構造を取り、囲いの外側と内側ではスピンの向きは上下反対を向いているという。このとき、スキルミオンの織目構造は位相幾何学によって量子化されるため、通常そのトポロジカル量子数NSは整数となるとされているが、この系では半整数の量子数を持つ異常な織目構造が発見されたとする。
研究チームによると、今回の研究は、磁性量子流体として実在するリチウム(7Li)の冷却原子気体BECが想定されており、近い将来、その理論的予言が実験で検証されることが期待されるとしている。
また、スキルミオンは対称性が自発的に破れた系の物性を支配する基本要素になり得るが、例えるなら電流が素電荷を持つ粒である電子の流れとして解釈されることと類似しており、これまで孤立したスキルミオンのトポロジカル量子数の最小単位NS=1が「素電荷」と認識されてきたものが、実はその半分になり得るということを今回の研究は示唆しており、この発見はスキルミオンの研究に変革をもたらす可能性があるとしている。