製造から販売まで一貫して行う眼鏡のSPAブランド「OWNDAYS」を展開するOWNDAYS社。10年前より海外市場を中心にビジネス展開してきた同社は、今まさに逆輸入のかたちで日本市場への攻勢をかけているところだ。そうしたさなか、コロナ禍に直面し、当初予定していたDX計画が一気に加速したという。

12月9、10日に開催されたウェビナー「TECH+EXPO 2021Winter forデータ活用~データが裏づける変革の礎」では、OWNDAYS社 代表取締役 田中修治氏が登壇。一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻教授 楠木建氏がモデレーターを務めるかたちで、基調対談「破天荒フェニックスOWNDAYSのニューノーマル時代を生き抜く戦略」が行われた。

  • 左から、一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻教授 楠木建氏、OWNDAYS 代表取締役 田中修治氏

コロナ禍で反省したこと、良かったこと

楠木氏: 今回のコロナ禍において、OWNDAYS社はどのような対応をしたのでしょうか。

田中氏:コロナ禍の対応については、反省点と良かった点の両方がありました。まず一番の反省材料は、ECの売上比率を上げていなかったことです。当然ながらECも手掛けてはいたのですが、売上はせいぜい数億円程度でした。これは弊社の場合、店舗運営で簡単に賄える数字に過ぎませんから、どうしても経営陣の意識も店舗優先になってしまっていたのです。

特に、眼鏡は実際に店舗で測定して、かけてみて、また調整してというプロセスが重要で、どんなに安くて良い商品であっても度が合わなければ不要なものでしかありません。そのためどうしてもECでは足りない部分が出てしまいます。経営陣としてはECの重要性を分かってはいるのだけど、ちょっと後回しにしていたところにコロナ禍となって、店舗運営が止まってしまうことになりました。

しかし、店舗が営業できない間にも、レンズの度が合わなくなってきたといったお問い合わせはあります。そこで簡単な調整などの対応ができるような仕組みづくりをしておけば売上につながっていたのではという点は反省しています。

逆に良かったこととしては、どうせ店舗が閉まっていてやることがないのだからと、当初3カ年計画で進める予定だったDX計画を10カ月で完了できたことがありますね。結果として今、2年分ほどのDX計画を先取りして進めているので、第5波のピーク時にはそれほど困ることはありませんでした。

急加速したDX –“シームレスにたまる”ことで生まれるデータの価値

楠木氏:具体的にはどんなDX計画を進めたのですか?

田中氏:眼鏡というのはまさにデータが重要となるツールです。検査して、処方し、そのデータをシームレスにウェブ上に登録することができれば、それが自動的にお客さまの購入履歴や処方内容になります。こうしてお客さまの眼鏡の度数などのデータがログとしてたまっていくので、最終的には検査をしなくてもAIで度数の自動判定をすることが可能になります。そこまで見据えて、今DXに取り組んでいるところです。

楠木氏:あらかじめ自分のデータがOWNDAYSにあれば、前よりももっとたくさん眼鏡を買いたいという人が増えるのではないでしょうか。

田中氏:そうなんです。眼鏡を買うのを躊躇してしまう一番の理由は面倒くささにあると思っています。価格はもう下がり切っているので、後は眼鏡を買うプロセスを靴やネクタイを買うときと同じくらい簡単にできるかどうかにかかっているのです。そのため、デジタルを活用し、いかに購買体験をシンプルにしていくかが重要になってきます。

楠木氏:今のお話を一般化して考えてみたときに面白いなと感じたのが、デジタル化のメリットは業務のスピードや効率化以外に、売上を上げることにもあるということです。実際、データを取得することで1人の顧客の眼鏡の購入本数が増えたということはありましたか?

田中氏:はい、増えました。

楠木氏:やはりそうですよね。多くの人々の目線がコストとスピードに行きがちな中にあって、きちんと本丸である売上に影響を与えているというところがポイントだと思います。また、活用するデータも決して特殊なものではなく、前から取得していた視力データなどが中心なのですから、実はこれまで普通に使ってきたデータでもシームレスにログがたまることで価値が生まれるはずです。