鹿児島大学は1月12日、アルマ望遠鏡を用いた観測から、天の川銀河における物質輪廻を現在担っている星々の正体が、太陽程度の比較的軽めの星の連星系であることを突き止めたと発表した。
同成果は、鹿児島大 理工学研究科 附属天の川銀河研究センターの今井裕准教授が参加した、スウェーデンやオランダ、スペインの研修者も参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
ヒトの場合、双子はおよそ80分の1から100分の1程度の割合で誕生するとされるが、恒星の場合、半分以上が複数の星が共通重心を回る連星系とされている。例えば、地球からもっとも近いケンタウルス座α星系も、もっとも明るいα星A、それに次ぐα星B、そして地球からもっとも近い隣の恒星であるプロキシマ・ケンタウリ(もっとも暗い)の三重連星系であることが知られている。
半数以上が連星系であることの理由は、星形成領域において同時期にいくつもの星が誕生することにあるものと考えられる。そうした連星系の内、二重連星は重力的に安定しているが、長い年月の間に互いの距離がどんどん近づいていってしまう場合もあるという。そして、より重力の大きい星の方が相方のガスを剥ぎ取って巨大化し、最終的にはもう1つの星と一体となるという進化の道筋も想定されており、この時、一体となった2つの星はガスと塵で構成される分厚い層(共通外層)をまとうことがわかっている。
しかしその中では一体何が起きているのか、これまでさまざまな可能性が考えられてきたが、結論は出ていなかった。そこで研究チームは今回、このような段階にある星々と目される「宇宙の噴水」天体に注目して、アルマ望遠鏡を使った観測を行うことにしたという。
宇宙の噴水天体とは、水蒸気分子が放つ強力なメーザーが観測される双極高速ガス流を伴う天体。天の川銀河には、1000億とも2000億ともいわれる無数の星々が存在するが、宇宙の噴水天体はこれまで15例しか発見されておらず、希少性の高い天体として知られている。
その希少性と、高速ガス流がガスの分厚い層を貫くのに要する時間から、宇宙の噴水天体でいられる時間は、星の寿命(数億~数十億年)のうち、最後のたった100年未満だと考えられている。
研究チームは今回の観測から、対象となった噴水天体のほとんどが、星の質量の半分にも達する大量の物質を、星の外へ吐き出していることを突き止め、これら物質の量を見積もるために、分厚い共通外層の中までも見通すことができる電波の輝線の観測を行ったという。
それらの輝線の強さから、宇宙の噴水天体は、もともとは太陽程度、大きくてもその2~3倍の質量しか持たない比較的軽い星であることが判明。太陽質量のおよそ8倍以上になると、最期に超新星爆発を起こすため、重い星と分類されるが、それ以下の軽い星は、最期は派手な爆発などは伴わず、物質を大量に放出して、燃えかすである白色矮星となる。単独星の場合、物質を大量放出する際の所要時間は数十万年にも及ぶと考えられることから、宇宙の噴水天体は2つ以上の星から成り立っている証拠であるとしている。
さらに研究チームは、天の川銀河中の進化終末星の中で宇宙の噴水天体が占める割合に基づいて、太陽程度の軽い星々が連星系を構成する場合、進化の最終段階で必ず宇宙の噴水天体へと変身すると結論付けたとしており、このような連星系が、ある種の超新星爆発を起こしたり(連星系を構成する白色矮星が起こすIa型超新星)、多様な形状を持つ惑星状星雲を作り出したりするもとになる天体だと推測されるとしている。
なお研究チームでは今後、100年未満という、ヒトの寿命でも観測可能な、天文現象としては非常に短い時間において、これらの天体が実際に上述したさまざまな天体を作り出すような進化をするのか、精力的に見届けることが重要となるとしている。