東京大学(東大)、科学技術振興機構(JST)、東北大学、米カリフォルニア工科大学(CALTECH)、独・マックス・プランク固体研究所(MPI-FKF)の5者は12月24日、高品質酸化亜鉛を用いることで、電気的な反発が強い電子集団の本質的な相図を解明することに成功したと発表した。

同成果は、CALTECH 材料工学科のジョセフ・フォルソン助教授、物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点の小塚裕介主任研究員(研究当時はJSTさきがけ研究者も兼任)、東北大 金属材料研究所 低温物理学研究部門の塚﨑敦教授、東大大学院 工学系研究科 附属量子相エレクトロニクス研究センター・物理工学専攻の川﨑雅司教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 強相関界面研究グループ グループディレクター兼任)、MPI-FKF 二次元電子系部門のクラウス・フォン・クリツィング部門長、MPI-FKF 固体ナノ物理グループのヨルグン・シメット グループリーダーらの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学/工学を扱う学術誌「Nature Materials」に掲載された。

物質の最も基本的な性質の1つは、温度や圧力などの外部環境によって固体・液体・気体(・プラズマ)など、相が変化することだ。そのことから、それらの関係性を示す「相図」は物質の最も基本的な情報となる。また、原子だけでなく電子が多数集まった集合に対しての相図は、1930年代ごろから現在に至るまで、理論的および実験的側面から多くの物理学者によって研究され続けてきた。

実験的には、電子の集団のみを物質内部から取り出すことはできないが、高品質なGaAsを用いると、電子はほとんど原子と衝突しないため、純粋な電子集団の示す相図を調べることが可能となるとされている。しかし、現実的には、電子の散乱が大きくなるため、電子の本質的な相図を実験的に検証できないことが課題となっていた。

研究チームは2015年に、代表的な酸化物半導体である酸化亜鉛を高品質化すると、電子の反発の影響が顕著になる希薄な電子密度になるにつれ、電子の散乱はむしろ低く抑えられることを報告していた。そこで今回は、この高品質酸化亜鉛を絶対零度付近まで冷却することにより、希薄な電子の相図を実験的に見出すことを試みることにしたという。

物質の相図の場合、外部環境として温度と圧力を変化させることが慣例となっているが、物質中の電子の場合、電気を帯びているため温度や圧力に加え、電子密度や磁場が重要なパラメータとなる。それに加えて、物性研究では温度が絶対零度の状態が最も電子の本質を表すと考えられている。

今回の研究では、絶対零度より約0.01℃だけ高い温度において、独自開発された高品質酸化亜鉛中の電子密度と外部の磁場を変化させ、電気抵抗を精密に測定することにより電子の相図を決定することにしたという。

  • 電子の相図

    (左)酸化亜鉛試料の画像。酸化亜鉛試料の電気測定にはチタン電極が蒸着され、電極に対してインジウムが用いられたはんだで配線が行われている。(右)外部環境として、圧力と温度を変化させたときの水の変化が示された相図 (出所:プレスリリースPDF)

電子の場合は気体・液体・固体の相に加え、磁気の性質の最小単位となるスピンを持つため、磁気の状態も含めた相図となる。今回の実験結果によれば、電気抵抗の状態は主に低・中・高の3状態があり、理論と比較するとそれぞれ、「常磁性液体」、「強磁性液体」、「強磁性固体」に対応することが明らかとなったという。

  • 電子の相図

    酸化亜鉛試料の電気抵抗測定と理論の電子相図との比較。高品質酸化亜鉛試料の電子密度と、外部磁場を変化させたときの電気抵抗と対応する領域の理論的電子相図の予測が示された図。電子密度は1cm2あたりの数で表され、物質中の原子密度はおよそ1014cm-2であるため、電子数は原子数に比べ0.01%程度の希薄な状態となる (出所:プレスリリースPDF)

なお、今回の研究成果で得られた電子相図は、物質によらず純粋に電子の集団的性質が反映されており、今後の電子論発展の基礎となるものだと研究チームでは説明している。また、今回の相図では、理論的に予測されている「反強磁性固体」の相に対応するシグナルが電気抵抗の測定で観測されなかったため、今後理論的な精査が必要となるとしている。