東京大学は12月16日、辛い鼻づまり(鼻閉)を引き起こしたアレルギー性鼻炎モデルマウスの鼻腔洗浄液から高濃度に検出された脂質代謝産物「15-hydroxy eicosadienoic acid」(15-HEDE)が組織の血流を増やし、炎症を増強する作用を持つことがわかったと発表した。
同成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の宮田佳奈大学院生(研究当時)、同・橘侑里大学院生(研究当時)、同・堀上大貴特任研究員(研究当時)、同・山本晃子大学院生(研究当時)、同・中村達朗特任講師、同・小林幸司特任助教、同・村田幸久准教授らの研究チームによるもの。詳細は、生物学全般を扱う学際的な学術誌「The FASEB Journal」に掲載された。
花粉症などのアレルギー性鼻炎はくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状を呈する疾患として知られ、中でも花粉症は国民病といわれ、日本人のおよそ3人に1人が罹患するといわれている。アレルギー性鼻炎の症状の中でも、鼻づまりは睡眠障害を引き起こし、患者のQOLを低下させる厄介なものであるため、その緩和・治療方法の開発が求められている。
鼻づまりの中でも特に辛いレベルのものは「鼻閉」と呼ばれ、鼻粘膜の血管における血流量の増加や透過性の亢進が、何らかの物質によって引き起こされることが分かっており、そうしたアレルギー性鼻炎の患者の鼻粘膜では、脂質代謝物を含むさまざまな生理活性物質が産生されることまでは分かっているものの、いまだに生理活性が不明なものも多い。
研究チームは、これまでの研究において、アレルギー性鼻炎モデルマウスの鼻腔中に、「エイコサジエン酸」の代謝産物である脂質「15-HEDE」が多く産生されている可能性を見出していた。そこで今回の研究では、15-HEDEが血管の機能と鼻炎症状に与える役割を評価することを目的とした研究を行うことにしたという。
具体的には、BALB/cマウスに卵白アルブミン抗原を摂取させ、鼻粘膜の浮腫や鼻腔の狭窄など、鼻づまりの症状を引き起こした後、鼻腔洗浄液を採取して液中の脂質濃度の測定。その結果、炎症性の脂質としてよく知られた「プロスタグランジンD2」や「トロンボキサンA2」よりも高い濃度となる約0.6ng/mlの15-HEDEが検出されたという。
また、15-HEDEの血管の機能への影響評価もマウスを用いて実施したところ、0.1~3μMの15-HEDE処置は、トロンボキサンA2受容体作動薬である「U46619」によって収縮させた血管を、内皮非依存的に弛緩させることが確認されたほか、その弛緩反応は、電位依存性K+チャネル阻害剤である「4-aminopyridine」によって有意に抑制されることも明らかにされた。一方で、「ヒト臍帯静脈内皮細胞」を用いて経内皮電気抵抗の測定による内皮細胞のバリア機能の評価からは、1μMの15-HEDE処置による変化は観察されなかったという。
さらに、15-HEDEが血管機能に与える影響について、個体レベルの検討を行ったところ、マウスでは1μgの15-HEDE処置が動脈・静脈をともに弛緩させることが判明したほか、マウスの耳介に同量の15-HEDEを処置すると、静脈に投与した色素が漏出し、血管透過性の亢進が確認されたという。
加えて、3μgの15-HEDEの経鼻投与では、鼻腔体積の減少と、病理切片における鼻粘膜肥厚が観察されたほか、同量の15-HEDEの経鼻投与後マウスの行動観察から、呼吸困難を示す症状スコアの上昇と呼吸頻度の減少も見られ、鼻づまりの増悪が示唆されたとする。
研究チームでは、今回の成果を踏まえ、15-HEDEが鼻づまりの原因物質である可能性があるとしており、この産生を抑えることができれば、鼻づまりを解消できる治療法の開発につながる可能性があるとしている。