リンクスは11月25日および26日、オンラインで年次イベント「LINX DAYS 2021」を開催。初日の基調講演には同社代表取締役の村上慶氏が登壇。リンクスの現状、そして目指すべき方向についての説明を行った。
技術商社として事業を拡大してきた同社だが、近年は自社で製品開発を手がけるなど、メーカーとしての機能拡充も図ってきた。そうしたこともあり、企業ロゴの刷新や新たなミッションやビジョンを定めるとともに、自らを商社と称することを辞めることにしたという。掲げたビジョンは「工場から人を消す 究極の生産効率の最適解を届ける」というものであり、その実現のために、現場の悩みを聞いて、一緒に課題解決に向けた伴走型技術支援を可能とするテクノロジープロバイダになることが新たな目標だとする。
メーカー機能と商社機能の融合により、海外の有望な技術ベンチャーをいち早く見つけてきて、日本でのものづくり産業に紹介していきつつ、それでも見つからないものについては、自ら作るというスタンスで、村上氏は「規模を活かして年間5社のベンチャー企業を発掘し、日本に持ってくることをやっていきたい(2021年は新型コロナの影響もあり3社に留まる)」とし、こうした取り組みもメーカー機能もその目的は、あくまで理想工場を実現することにあるとする。
まだまだ進化の余地がある製造現場での画像処理技術
現在、同社が取り扱う技術範囲としては、大きく「画像処理」、「エンベデッドビジョン」、「ロボット」、「IIoT」の4分野。画像処理については、ディープラーニングをものづくりの現場で活用したいというニーズが高まっているものの、まだまだ機能強化の余地があるという。例えば、追加学習を可能としたり、なかなか発生しない不良をいかに学習させるかであったり、物体レベルの検出技術であったり、といったことが方向性としてあるという。
また、こうした画像処理を実現するカメラについては、性能、価格で見た場合、すべての商品領域にベストなコストパフォーマンスの製品を提供していくとするほか、対応するアクセサリーの拡充も進めていくことで、ワンストップソリューションとしての提供を2022年中ごろには実現したいとしている。
民生技術の導入でより安価で高性能なエンベデッドビジョンの実現へ
エンベデッドビジョンについては、現在、SoCをいかに持ち込むかがトレンドになっているとする。個々のニーズに合わせたカスタムASICではなく、汎用的な組込機器などで使われるSoCであり、これを活用することで、従来のPCアーキテクチャに比べ、同等性能をより安価に提供できるようになるとする。
ただし、単に安く提供するのでは提供できる価値は限定的なものであり、真の意図は、これまで見たくても見れなかった、見れるとは思っていなかった部分が見えるようになる、という装置としての価値向上にあるとする。
産業分野におけるロボットの付加価値をどう高めるのか
ものづくりの現場には、すでにさまざまな種類のロボットが活用されるようになっているが、今後、その適用範囲はさらに拡大することが期待されている。そうした動きを受けて、リンクスでも2020年にはフィンランドNavitecのAGVナビソフトの販売を開始。2021年もロボットの関節軸を動かすために必要な、サーボドライブ、エンコーダー×2、ブレーキ、安全機能を、ロボットの関節軸に埋め込むことが可能なコンパクトな筐体に一体化させたモーションドライブユニット「SOMANET Circulo(ソマネットサーキュロ)」を手掛けている独Synapticonの日本市場へ投入している。
村上氏は「自分たちがやろうと思ったら膨大なリソースが必要となる部分がターゲット」だと説明する。それがAGVで言えば、NavitecがサポートするSLAM領域であり、ロボットではサーボドライブやモーターだとする。こうした海外企業の技術を活用することの目的は、オートメーションのレベルを引き上げることだという。すでにAGVやロボットが入っているところではなく、まだそうしたものが入りきれていないところでも活用できるようにすることが、それにより可能になるという。
標準化で将来にも通用するITCエコシステムの構築を
日本では多くのPLCにラダー言語が用いられてきた。しかし、現状では大学などでラダー言語を教えているところは限られているほか、PLCやFA PCの性能向上に伴い、1台のPCで複数台のPLCをソフトウェアドリブンで処理できるようになってきた。
こうした社会的な変化を踏まえ、村上氏は「未来に向けたITCのシステムを作ってもらいたい」と語り、そのためのツールとして、CODESYSは国際標準規格 IEC 61131-3に準拠したSoftware PLC/-Motion/-HMIであるCODESYSが存在するとした。
日本では2016年にヤマハ発動機が導入して以降、徐々にユーザーが増加。2020年にはトヨタ自動車や川崎重工業が導入したほか、2021年も社名は非公表ながら、モーター製造大手が導入したとする。また、これまで年に1-2社程度であった導入企業数が、2022年には少なくとも5社からCODESYSを搭載したコントローラが発売される予定とするほか、2023年についても2社の導入が決定済みであり、今後もこの流れは加速しているものとの見方を示している。
IIoTが実現されると何が起こるのか
またものづくりの現場における真のIIoTを実現するためには、単に設備の状況データだけではなく、製造物についての情報であったり、今、そういった仕掛品がどこにいるのかといった位置情報であったりといったような、より多くの情報が必要になるという。
そのために同社は2021年に、複数種類のセンサからの情報を標準化し、メタデータを付与して情報を整理することを可能とする位置情報解析ソフトウェアの「KINEXON RIoT(キネクソンライオット)」を手掛ける独KINEXONと、ギアなどのバーコードが付与されない製造物のトレースを可能とする非接触トレーサビリティシステムの「FeaturePrint(フィーチャープリント)システム」を手掛ける米Alitheonと契約。これらを活用することで、例えば少量多品種生産時における工具の選択ミス時にエラーを出したり、工具を動作させないといったことが可能になるとするほか、製造時の個体特有のデータを設備の稼働データと紐づけることで、個体割り出しを容易に行えるようにしたりといったことができるようになり、品質の向上であったり、生産効率の向上などを図ることができるようになるとする。
村上氏は、「オートメーションのさらなるレベル向上は、既存技術の延長では実現できない」と強調するほか、「差別化につながらないポイントにエンジニアの工数を割いても、競争には勝てない。例えば自動走行を実現するにしても、SALMはその中の1つの要素にしか過ぎない。ほかにもやらないといけないことがある。工数をかける必要のないところは汎用ツールを活用してもらうことで、本当に差別化が必要な部分にリソースを集中させることができるようになる」とし、リンクスとしても、あるものは見つける、無ければ作る、という伴走型の技術支援を深化させていくことで、よりユーザーの目指す未来の工場の姿に近づく支援をしていきたいとしていた。