千葉大学と京都大学(京大)は12月3日、細胞増殖を妨げる「CDKN1A」と「p53」という2つの遺伝子の働きを抑えることで、ヒトiPS細胞からの血小板産生細胞を従来よりも高効率に得られることを確認したと発表した。

同成果は、千葉大大学院 医学研究院の高山直也、京大 iPS細胞研究所 臨床応用研究部門の中村壮特任助教、同・江藤浩之教授、北海道大学の曽根正光助教を中心とした、メガカリオン、東京大学、宮崎大学の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、幹細胞を扱うオープンアクセスジャーナル「Stem Cell Reports」に掲載された。

研究チームはこれまでの研究で、ヒト多能性幹細胞を、血小板を生み出す細胞である「巨核球」へと分化させ、さらに増殖を促進するMYC、BMI1、BCLXLという3種類の遺伝子(MBX)を発現させることで、その巨核球を無限に増殖が可能な「不死化」することに成功していた。

しかし課題として、多能性幹細胞から不死化巨核球を樹立できる確率が5%以下と低いこと、ほとんどの試行においてMBXを発現させても、巨核球が増殖を2か月以内に停止してしまうこと、増殖能力の低い巨核球は、産生できる血小板数も少ないということなどの課題があったという。そこで研究チームは今回、巨核球が不死化する確率を高くできる手法の改善などを目指すことにしたという。

具体的には、さまざまなヒトiPS細胞株をもとに従来法で得られた巨核球を、その増殖能力の程度によって高/中/低増殖の3カテゴリに分類。遺伝子発現解析を用いて、低または中増殖巨核球は高増殖巨核球に比べ、細胞の増殖を抑える働きがある遺伝子のCDKN1Aおよび「CDKN2A」が高い傾向で発現していることを確認した。

また、そうした低/中増殖巨核球において、標的とする遺伝子のmRNAを破壊してその遺伝子の機能を抑制できる「shRNA」を細胞に導入し、CDKN1AおよびCDKN2A、そしてCDKN1Aの発現を促進する遺伝子である「p53」を抑制してみたところ、CDKN1Aとp53に対してshRNAを導入し場合、最終的に従来より100倍以上の細胞数が得られ、増殖が改善されることが確認されたという。

  • 血小板産生

    従来の不死化巨核球樹立法と得られた巨核球の増殖曲線 (出所:京大 CiRA Webサイト)

さらに、iPS細胞から巨核球を分化する過程でこれらのshRNAを導入し、巨核球の不死化効率が改善するかどうかを調べたところ、MBXに加えてCDKN1Aとp53に対するshRNAを同時に導入することで、増殖期間が4倍程度、増殖率が100億倍以上と増殖能力が改善することが確認されたとするほか、従来法で得られた中増殖巨核球にshRNAを導入した巨核球株と、iPS細胞からの分化過程でshRNAを用いる新手法で樹立された巨核球は、いずれもshRNAを用いないで得られた巨核球よりも血小板産生能力が数倍~数十倍高いことも判明。その能力は、これまでに作製された中でもっとも血小板産生能力の高い巨核球株に比類するものだったという。

  • 血小板産生

    CDKN1A、p53に対するshRNAによる巨核球の増殖改善 (出所:京大 CiRA Webサイト)

このほか、今回の手法で得られた巨核球株は、同じiPS細胞由来の従来法で得られた巨核球に比べ、血小板産生が旺盛な巨核球に見られる特殊な細胞内膜構造である「DMS」を発達させている様子が観察されたほか、高い割合で血小板がかさぶた(血栓)を作る際に血小板同士を架橋して結合を強める「インテグリン」分子に特異的に結合する抗体「PAC1」が存在していることも確認。血小板としての機能性を有することが示されたとする。

  • 血小板産生

    shRNA導入巨核球の血小板産生能力と血小板機能の解析 (出所:京大 CiRA Webサイト)

なお、研究チームでは、今回の研究成果により、これまでネックとなっていた個別のiPS細胞から不死化巨核球の作製が効率化されることが期待されるようになるとしているほか、血小板不応症の患者の体内で抗体反応が起きにくい血小板など、患者の疾患に合わせた機能を持つテイラーメイド血小板の作製に応用されることも期待できるとしている。