神戸大学は12月2日、第一原理計算に基づいたSiC中の高密度窒素層の構造モデルについて新たな提案を行ったことを発表した。
同成果は、神戸大大学院 工学研究科の小野倫也教授、同・植本光治助教、同・小松直貴大学院生、北海道大学の江上喜幸助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会の英文学術誌「Journal of the Physical Society of Japan」に掲載された。
次世代パワー半導体として期待され、実用化が進められているSiCだが、現在も性能向上や用途の拡大などの研究開発が進められている。中でも、SiC-MOSFETではキャリア移動度の改善が課題として残されており、その解決が求められている。
そうした中、近年になって、窒素系ガス中での熱処理(窒素アニール)により、SiC-MOSFETの特性が向上することがわかってきた。この手法では、表面に高密度(1平方cmあたり100兆~1000兆個)の窒素原子が層状に存在することが実験から推測されているという。
SiC結晶は、特性の異なるさまざまな結晶面を持つが、窒化のしやすさも面方位に依存することが知られているが、そうしたさまざまな結晶面の方位を考慮した場合、原子スケールで見たときに窒素原子がどのような構造を取るのかよく理解されておらず、今回の研究では、そうしたSiC結晶中に形成される高密度窒素層の理論モデルを提案することにしたという。
提案されたモデルは、さまざまな結晶面の方位(面方位)に対する窒素原子の配置を普遍的に記述できることが特徴で、提案された構造は、4H-SiCのバルク結晶中に窒素原子(NC)と、それを取り囲むようなシリコン空孔(VSi)を添加したもので、不対結合を生じないため化学的安定性が予想されるという。また、窒素原子密度は1平方cm辺り1200兆~1500兆個程度となり、実験で報告されている数値をよく再現できているとしている。
さらに、研究チームが開発を進めている第一原理電子状態計算プログラム「RSPACE」を用いたシミュレーションにより、構造最適化とエネルギーの安定性評価が行われたところ、形成エネルギーの面方位依存性から窒素添加の起こりやすさには異方性があり、今回のバルク結晶の場合はa面に沿った窒化が優位になるという理論的な予測がなされたほか、詳細な解析により、この挙動が窒素原子近傍のシリコン原子の窒素・炭素配位数に由来した電子状態の変化に起因することが明らかになったとする。なお、窒化の異方性については先行研究もあるが、原子スケールから見たメカニズムの解明は今回の研究が初の試みだという。
SiC-MOSFETの高性能化に窒化処理は不可欠だが、界面で起きる化学反応や窒素の侵入深さなど、現在も未解明な点は多い。そうしたことから今後は、コンピュータによるシミュレーションを駆使した解析研究がさらに進んでいくことが考えられるという。また今回の研究で提案された高密度窒素層の構造モデルは、窒化された界面をコンピュータで扱うための低コストな計算モデル構築に役立つことが期待できるとしている。