量子科学技術研究開発機構(量研)は11月25日、ブラックホールのジェットや中性子星の表面など、強い磁場を持つ天体における電子のシンクロトロン放射で、「ガンマ線渦」と呼ばれる渦状の形状を持つ特殊なガンマ線が主に放射されていることを、量子力学による計算によって明らかにしたと発表した。

同成果は、日本大学の丸山智幸教授、量子科学技術研究開発機構の早川岳人上席研究員、北京航天航空大学の梶野敏貴教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、素粒子、原子核、宇宙論を扱う学術誌「Physics Letters B」に掲載された。

宇宙空間における強力なガンマ線やX線などが関連する天体現象としては、短時間に膨大なガンマ線が放出される「ガンマ線バースト」や、周期的に強力なX線が放たれる「X線パルサー」などがある。ガンマ線バーストは、強い磁場が存在する降着円盤とジェットを伴ったブラックホールから放出されているとする説が有力視されているほか、X線パルサーは強い磁場を持った中性子星の「マグネター」から放出されていると考えられている。こうした天体がガンマ線やX線を放出する際に重要な役割を果たしているとされるのが強い磁場で、そうした磁場に電子が飛来するとらせん運動を行い、「シンクロトロン放射」によって、らせん運動の外側にガンマ線やX線を放出するとされている。

また、この強い磁場中においては、電子のシンクロトロン放射によって、特殊な形状の光である「光渦」が生成されることが古典電磁気学理論によって示唆されていた。

こうした背景を受け、研究チームは今回、量子力学の観点から強い磁場中の電子のシンクロトロン放射を計算することにしたという。渦状の波動関数を持つ光子は「光子渦」と呼ばれるほか、ガンマ線はエネルギーの高い光であり量子力学では光子でもあるため、エネルギーの高い光子渦は「ガンマ線渦」と呼ばれている。

具体的には、磁場中の電子のらせん運動およびらせん運動からシンクロトロン放射で放出させる光について、ランダウ量子化を用いた計算が行われた。その結果、電子のらせん運動から放出された光(ガンマ線)は、渦の形状をしていることが判明したほか、空間的に均一の磁場で、シンクロトロン放射で放出される通常の光と渦状のガンマ線渦の割合を計算したところ、ガンマ線渦が放出される割合は、磁場の強さに依存することが判明。これは、磁場が強ければガンマ線渦が生成される割合が高くなるということを意味しており、特に1013ガウスの磁場においては、通常のガンマ線よりガンマ線渦が生成される割合が高いことが判明。このことは、ガンマ線バーストやX線パルサーにおいては、ガンマ線渦が多数含まれていることを示唆するものであると研究チームでは説明している。

  • ガンマ線渦

    (上)ガンマ線バーストと電子のらせん運動の模式図。(下)磁場中の電子のらせん運動の量子化の模式図。らせん運動する電子を進行方向から見ると円軌道に見える。量子力学では、この円軌道の直径は磁場の強さに応じて特定の値しか取れない (出所:量研Webサイト)

なお、現在のガンマ線/X線天文学では、宇宙から飛来するガンマ線を人工衛星などに搭載したコンプトン散乱に基づいた測定装置で観測しているが、研究チームでは、すでに同原理に基づいた高性能測定装置を用いれば、宇宙から飛来するガンマ線渦の直接観測できる可能性を示しているとする。また、先行研究から、ガンマ線渦は通常のガンマ線とは異なり、素粒子、原子核、原子、分子などの物質と反応する時には、通常のガンマ線とは異なる反応確率を持ち、反応の生成物が異なると予想されていることから、今回の成果は、強い磁場を持つ天体現象をより正確に計算しようとする際に、影響を与える可能性があるともしている。

  • ガンマ線渦

    (左)ガンマ線渦の模式図。らせん運動する電子(黄)から、ガンマ線渦(青)が放出される。(中央・右)ガンマ線渦と通常のガンマ線を比較した模式図 (出所:量研Webサイト)