NTTは11月16日から19日まで「NTT R&Dフォーラム2021」を開催し、同社の最新の取り組みを紹介する。「Road to IOWN 2021」をテーマとする今回のイベントでは、NTTグループが一体となって取り組む、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の最新の研究事例を紹介予定だ。
同イベントは例年NTT武蔵野研究開発センターで実施しているが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて昨年に引き続きオンラインで開催する。同イベントの開催に先駆けて記者説明会が開かれたので、その模様を紹介しよう。
IOWN構想とは、光技術を中心に革新的な技術を活用した高速大容量通信や膨大な計算リソースを提供可能な、ネットワークおよび情報処理基盤の構想だ。従来の情報通信インフラを変革して、現在のICTを大幅に上回る通信基盤の提供を目指す。
冒頭、同社の研究企画部門長である川添雄彦氏が「これまでの人類の技術革新は、資源の枯渇や希少生物の絶滅、環境破壊などの負の側面も生み出してきた」と述べた上で、「私たちは人類だけをフォーカスするのではなく、地球全体を一つの系として認識して、最も地球に負荷を与えないイノベーション目指し、IOWN構想を掲げた」と、IOWN構想の背景を紹介した。
続けて、川添氏は「2024年にはIOWNデバイスを、2025年にはIOWNシステムを、2026年には商用展開を開始する。人類、生物、地球が幸福であり続けるために 私たちNTTグループは限界打破のイノベーションに挑戦し続ける」と意気込みを見せた。
IOWN構想の主要技術分野の一つに、「オールフォトニクス・ネットワーク(APN: All-Photonics Network)」がある。これによって、低遅延かつ遅延ゆらぎのないネットワークが構成できるという。1マイクロ秒精度のレイヤ1通信パスで中央拠点とユーザーを結んだ上で遅延調整技術を活用することで、e-Sportsを遠隔地からでも公正に競技できるようになるとのことだ。
現在の通信状況では、遠方からの参加者は遅延が発生するため、一般的にサーバに近いプレイヤーの方が有利とされる。しかし同技術を用いることによって、1000キロメートル離れた場所からでも遅延環境がそろった状態で参加可能だ。
また、APNのインタフェースや帯域を制御することで、オンデマンドに多地点を接続し高速なネットワーク環境も実現可能だ。非同期カメラ信号に適用可能な超低遅延のストリーム型映像合成処理を特徴とし、スポーツやエンターテインメントなどの大容量コンテンツも遅延なく多地点へ配信できるようになる。超低遅延である特徴を利用することで、遠隔地からでも音楽の合奏ができるようになると期待が高まる。
次に紹介するのは、NTTドコモが取り組む持続可能な社会を目指す宇宙統合コンピューティング・ネットワークだ。これは、高高度無人機「HAPS(High Altitude Platform Station)」と低軌道・静止軌道衛星と地上5G evolution & 6G網を統合したネットワークを目指すものである。観測データを宇宙で処理して結果のみを地上へ送信することで、災害時の迅速な撮像と被災状況把握に活用できるとのことだ。将来的には、地上と宇宙の多層接続により、地上を100%カバーした大容量通信サービスの提供を目指す。
ユニークな展示の一つに、「MediaGnosis」がある。次世代メディア処理AIと呼ばれる同システムは、映像や音声などのマルチモーダル情報をリアルタイムかつ統合的に処理可能だ。人の顔や声、ふるまいなどを網羅的に測定して、AIにより個性を抽出できるのだという。
「MediaGnosis」を搭載したシステムとして「MOTESSENSE」を展示している。個性が出やすいシーンを通してコミュニケーション時のふるまいを測定し、魅力的な個性の発見を助けるアプリだ。話し方や表情、身振り手振りなどから他人と比較して個性的な部分を魅力として提示する。
そのほか、低遅延な通信を利用して遠隔ロボット操作を実現する「OriHime-D」の実証実験の様子や、5Gミリ波帯電波の反射方向を動的に制御するRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)などを展示し紹介している。