電気通信大学(電通大)は10月5日、製作が容易で特殊な機器も必要とせずに自己センシング(認識)が可能なエラストマーセンサを備え、筋肉の伸び縮みを計測可能としたマッキベン型人工筋肉を開発したと発表した。
同成果は、電通大 機械知能システム学専攻の新竹純助教らの研究チームによるもの。詳細は、ロボット工学と自動化を扱うIEEEの学術誌「IEEE Robotics and Automation Letters」に掲載された。
マッキベン型人工筋肉は、1950年代から1960年代にかけて行われた義肢の研究において開発されたソフトアクチュエータの一種で、伸縮性のあるチューブの外側に伸び歪みしない編組繊維のスリーブを配置した構造で、スリーブはチューブの末端で結束されている。チューブに空気圧を与えると径方向に膨らみ、それと同時にスリーブを構成する繊維同士の交差角度が大きくなって長さ方向に縮む仕組みとなっている。
マッキベン型人工筋肉の特徴として、電磁モータに比べて軽量な割に出力が大きいこと、また構造が柔らかいため軟接触が可能で安全性が高いことが挙げられ、ロボットや補助器具、手術機器といったさまざまなデバイスに適用されているが、従来型のマッキベン型人工筋肉は、アクチュエーションの際にチューブとスリーブの摩擦によってヒステリシスが発生してしまうため、精密制御には追加のセンサを必要とする課題があった。
そのため、これまでにもレーザー変位計を用いるなど、さまざまなタイプのセンシング法が提案されてきたが、こうした外部センサを取り付けた人工筋肉は、構造の特殊性から製作が困難であったり、特別な機器が必要だったりするデメリットがあることから、より製作が簡便で、特別な機器などを必要としないセンシング方式が求められていたという。
そこで研究チームは今回、マッキベン型人工筋肉に柔らかいエラストマー膜の両面を2枚の柔軟な電極で挟んだ単純な構造をしており、製作や人工筋肉への統合が容易に行える点がマッキベン型人工筋肉に向いているという「エラストマーセンサ」を統合することを検討。実際には、市販のフィルム状の誘電体と電極材料を用いてエラストマーセンサが作製され、チューブ上に貼り付けられた。人工筋肉の収縮に応じて静電容量が変化することから、これにより長さ方向の変形を検出することが可能となるため、このエラストマーセンサを備えたマッキベン型人工筋肉による測定を通じて、センサ特性の解析が行われることとなった。
用いられた誘電体と電極材料の破断伸びは300%以上であり、高い伸縮性があるほか、引張強さは0.7MPa程度で、チューブの引張強さ(32MPa)よりも十分小さいため、アクチュエータの動作にはそれほど影響しないと考えられたという。製作された人工筋肉のセンシングとアクチュエーションの特性解析が行われ、合計3つのサンプルを測定してその平均値が求められたところ、圧力の上昇に応じて静電容量が大きく増加していることが確認できたほか、アクチュエータは長さ方向に収縮しており、その変形がセンサの応答に表れていることがわかったとした。
また、0kPaから300kPaまでの各値は誤差が小さく、精度が高いことも示唆されたとするほか、変形量の標準偏差も全体を通して小さく、製作誤差も小さく抑えられていることが確かめられたともしている。さらに、作成された解析モデルとセンサの出力は一致しており、1000回以上の繰り返し動作に対する安定性も確認されたという。
これらの結果を踏まえ研究チームでは、この手法を用いることで、マッキベン型人工筋肉の導入がより容易になるとしており、それによりロボットやヒューマンアシストデバイスを含む、さまざまな機械システムの実用化が促進されることが期待されるとしている。また、今後は、これらのロボットデバイスの研究開発を行う予定としている。