米国のベンチャー企業「リンク・グローバル(Lynk Global)」は2021年9月29日、一般的な普通の携帯電話と衛星との間で、直接通信し、インターネットに接続する実証試験に成功したと発表した。

従来の衛星通信は、専用の端末や無線基地局がなければできなかった。この技術が実用化されれば、街にある無線基地局と同じように衛星を利用することで、山間部や島嶼地域など電波が届きにくい地域へのサービス提供や、災害時の通信確保などに役立つ可能性がある。

  • リンクの実証衛星「シャノン」

    今年6月30日、リンクの実証衛星「シャノン」などを積んで打ち上げられたファルコン9ロケット (C) SpaceX

一般的な携帯電話と衛星との通信実証に成功

リンク・グローバル(以下、リンク)は、2017年に設立されたベンチャー企業で、米国ヴァージニア州に本社を置く。同社は、一般的な携帯電話と双方向通信できる衛星を使い、世界のどこからでもブロードバンドや音声、テキストメッセージなどのサービスを利用できるようにすることを目指している。

衛星を使った通信サービスはこれまでにもあったが、通信には衛星通信専用の周波数帯を使い、さらに専用の端末やアンテナが必要だった。

たとえば衛星携帯電話でおなじみのイリジウムは、通話やデータ通信に専用の携帯電話が必要で、一般的な携帯電話やスマートフォンでは利用できない。また、近年ワンウェブやスペースXといった企業が低軌道衛星のコンステレーションによるブロードバンド・サービスの展開を目指しているが、通信にはピザの箱サイズの無線基地局を用意し、それを介して携帯電話やパソコンなどをつなぐ必要がある。こうした専用機器は高価であり、用意したり持ち運んだりするのも手間がかかる。

一方リンクは、衛星をあたかも街にある無線基地局と同じように利用できるため、一般的な携帯電話やスマートフォンでそのまま通信できる。専用のアプリ、ソフトウェアをダウンロードする必要もないという。

この技術が実用化されれば、山間部や島嶼地域など電波が届きにくい地域でも、一般的な携帯電話、スマートフォンで通信ができるようになるほか、災害や障害などで地上の無線基地局が利用できなくなった場合でも通信を維持することができる。

リンクはまず、無人補給船に設置するタイプの試験装置や、超小型衛星を打ち上げ、実証試験を実施。そして今年6月30日、スペースXの「ファルコン9」ロケットで、同社によって5機目の装置、衛星となる、愛称「シャノン(Shannon)」を打ち上げた。衛星の寸法などは不明だが、比較的大きなアンテナをもっているものと推察される。軌道は、高度約500kmの低軌道に投入されたことが確認されている。

そして9月14日、英国、米国、バハマにおいて、数百台の携帯電話とシャノンとを接続する試験に繰り返し成功。シャノンはまた、世界初にして唯一の、宇宙にある携帯電話の基地局の認証も取得したという。

なお、通信速度やデータ量、携帯電話側の消費電力など、技術的なことについては明らかにされていない。

同社は「今回の試験の成功により、誰もがどこでも標準的な携帯電話でつながるための最後の大きな技術的障害を解決したことを証明しました」としている。

リンクのCEOであり、共同設立者でもあるチャールズ・ミラー(Charles Miller)氏は、「6年前、多くの人々は、普通の携帯電話と衛星とを双方向で接続することは不可能だと考えていました。しかし、私たちは不可能を可能にしました」と語った。

また、同社の共同設立者のひとり、タイ・スパイデル(Tyghe Speidel)氏は、「実現のためには、いくつかの技術的な問題を解決しなければなりませんでした」と語る。

「とくに、他の携帯電話のノイズがある中で、携帯電話から衛星への通信を送ること(アップリンク)は大きな課題でした。また、衛星は秒速数kmという速さで飛んでいるため、地上の携帯電話との間に生じる大きなドップラーシフトを補正することも課題でした」(スパイデル氏)。

同社はすでに、バハマ諸島の通信事業者Alivと中央アフリカ共和国のTelecel Centrafiqueとの間で、サービス提供の契約を締結。また、衛星のさらなる打ち上げによるコンステレーション(衛星群)の構築も進め、2022年7月から商業サービスを開始するとしている。

  • リンクのモバイル通信の概念図

    現在の衛星を使ったモバイル通信の概念図(左)と、リンクが目指す将来の概念図(右) (C) Lynk

スマホと衛星との直接通信は楽天も参入

一般的な携帯電話と衛星を直接接続しようとしているのはリンクだけではない。テキサス州に本社を置くAST & サイエンス(AST & Science)も、「スペースモバイル(SpaceMobile)」というサービスの展開を目指している。

同社は2019年に「ブルーウォーカー1(BlueWalker 1)」という小型の試験衛星を打ち上げ、通信遅延やドップラーシフトの影響などを試験。早ければ2022年の前半にも、より本格的な実証衛星「ブルーウォーカー3」を打ち上げ、携帯電話と直接通信する試験を行うとしている。

同社には楽天モバイルや英国の通信大手ボーダフォン、米国のアメリカン・タワーなどが出資している。

楽天は2020年3月、AST & サイエンスへの出資にあたり、地上の無線基地局の整備を進めるとともに、スペースモバイルも利用することで、携帯電話サービスの提供エリアを拡大し、電波が届きにくい地域へのサービス提供や自然災害発生時における国内通信ネットワークの提供を強化することを目指すと説明。また、データ通信料も地上のモバイルネットワーク間のローミング価格と同程度で提供できる予定だとしている。

参考文献

Lynk Proves Direct Two-way Satellite-to-Mobile-Phone Connectivity - Lynk
How Lynk Proved Direct Two-way Satellite-to-Mobile-Phone Connectivity - Lynk
Successful Launch of First Satellite | AST & Science
楽天、米AST & Science社へ出資し、戦略的パートナーシップを締結 | 楽天グループ株式会社