大阪大学(阪大)は9月15日、キャリア濃度が1020cm-3に達するGaNウェハのキャリア濃度および移動度を、テラヘルツ波を利用した非接触・非破壊の手法で評価することに成功したと発表した。

同成果は、阪大 レーザー科学研究所の中嶋誠准教授、阪大 大学院 工学研究科のヴァーダッド・C・アグルト特任研究員、日邦プレシジョンの岩本敏志博士、阪大 レーザー科学研究所のヴァリン・K・マグウサラ特任研究員、同・吉村政志教授、阪大大学院 工学研究科の今西正幸准教授、同・森勇介教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

次世代パワー半導体として期待されているGaNの低抵抗GaNウェハの需要は高く、高電圧で高周波数の応用に対して不可欠な縦型GaNパワーデバイスの性能を向上させるために活発に研究開発が進められている。こうしたGaNデバイスの開発において求められているのが、1019cm-3もしくはそれ以上のキャリア濃度に対する電気特性の非破壊検査方法だという。

現在、半導体の非破壊検査において、利用が進められているのがテラヘルツ波(THz波)を利用して電気特性を見積もるというもので、研究チームは今回、THz波による半導体の非破壊評価において測定可能なキャリア濃度領域を広げる技術の開発を試みることにしたという。

そうして開発されたのが日邦プレシジョンとの共同開発で開発された光学技術「テラヘルツ時間領域エリプソメトリ」を取り入れたテラヘルツ時間領域エリプソメータ「Tera Evaluator」だという。テラヘルツ時間領域エリプソメトリは「テラヘルツ時間領域分光」(THz-TDS)技術を基盤とした、透過しない材料を対象とした分光手法で、THz-TDSと違いリファレンス測定が不要という特徴があるという。

Tera Evaluatorを用いたGaN半導体の評価の結果、誘電率を精度よく測定することに成功。特に、高い伝導率の半導体に対して、優れた精度でキャリア濃度および移動度の決定が可能になることが示されたとした。また、同装置に搭載した、検光子の角度を0°から360°まで15°ステップで変えながら波形を取得するマルチアングル技術により、測定可能範囲は約1020~1021cm-3にまで広がったとしている。

また、Tera Evaluatorは、テラヘルツ波が透過しない物質でも誘電率を精度よく測定できると同時に、物質内の自由電子を反映したテラヘルツ領域の誘電率から伝導特性を評価することから、GaNだけでなく、SiCやほかの半導体の評価にも有効だという。

  • テラヘルツ波

    テラヘルツエリプソメトリによる半導体評価のイメージ。斜入射の直線偏光のテラヘルツパルスが半導体によって、異なる偏光成分がそれぞれ違うように反射され、楕円偏光になっている様子が表されている。このリファレンスを必要としないテラヘルツ波を用いた非破壊の手法により、高キャリア濃度の半導体評価が可能となった (出所:阪大Webサイト)