北里大学は9月10日、「COVID-19対策北里プロジェクト」の一環として、米国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の大規模電子診療データを解析した結果、「高齢」、「男性」、「2型糖尿病」、「肥満」といった要因が重複するほど、入院治療や集中治療となる危険性が高まることを明らかにしたと発表した。
同成果は、北里大薬学部の安藤航助教、同・堀井剛史助教、北里大 メディカルセンター研究部門の植松崇之室長補佐、北里大 大村智記念研究所 感染制御研究センター・感染巣薬学講座の花木秀明教授(センター長)、北里大薬学部 臨床薬学研究・教育センター 臨床薬学の厚田幸一郎教授、同・尾鳥勝也教授(北里大メディカルセンター薬剤部長兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
新型コロナはこれまでの研究から、男性、肥満、高齢などが重症化の危険因子となり得ることがわかっているほか、高血圧や慢性心疾患、肺疾患、2型糖尿病などの合併症も重症化に大きく影響することが報告されている。
米国疾病対策予防センターの発表によれば、米国ではおよそ10人に1人は2型糖尿病であり、2型糖尿病や肥満が深刻な社会問題となっている。しかし、これらのリスク因子が重積したとき、新型コロナの重症化にどの程度影響するのかについてはよくわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、米国の大規模電子医療記録データベースを用いて、リスク因子の重積が新型コロナの重症化に与える影響を明らかにすることを目的とした検証を試みることにしたという。
今回の研究では、米国全土の医療機関から収集された1億人以上の匿名の電子診療記録などを、研究者が無償で利用できるデータベース「COVID-19 Research Database」の中から、2020年1月1日から2020年11月30日までの間に新型コロナに感染した患者2万8095人を対象とし、65歳以上や性別、2型糖尿病、肥満などの背景因子がある場合に、診断日から30日以内に入院治療または生命の危機に瀕している患者に対する治療であるクリティカルケアを受ける危険性が評価された。
それぞれの背景因子ごとに関する解析が行われた結果、最も入院やクリティカルケアとなりやすい因子は、65歳以上の年齢であることが判明したほか、次点として2型糖尿病が高い危険性を示したが、メトホルミンやSGLT2阻害薬などの糖尿病治療薬を服用中の患者ではリスクが低下していることも確認されたという。
また、因子が重なるごとに、どれくらい危険性が高まるかが解析されたところ、年齢が65歳以上、男性、2型糖尿病、肥満(BMIで30kg/m2以上)をそれぞれ1点として点数を加算すると、1、2、3、4点の患者は、入院する危険性がそれぞれ約3倍、約6.5倍、約16倍、約20倍に高まることが明らかとなったほか、クリティカルケアとなる危険性は2、3、4点の場合は約15倍、約38倍、約55倍と高いことも判明した。
この結果を踏まえ研究チームでは、若返ったり性別の完全な転換などはできないが、治療薬による糖尿病のコントロールや、運動や食事制限による肥満の解消などでリスク因子の重なりを減らすことで、新型コロナの重症化を軽減できる可能性があるとしている。
なお研究チームによると、欧米人ではインスリンに対する抵抗性が高くなるヒトが多いのに対し、日本人はインスリンの分泌が不足するヒトが多いなど、2型糖尿病や肥満の割合や性質が大きく異なることから、今回の米国のデータベースから導き出された結果が、そのまま日本に当てはまるとは限らないとしている。そのため、今後は、ワクチン接種データを加えた結果や、日本人やアジア人を対象とした解析を進め、種々のリスク因子と新型コロナの病態との関係などを明らかにしていくとしている。