大阪大学(阪大)は9月7日、線虫の嗅覚をセンサとして活用する検査法が、早期の膵がん診断に有用である可能性を確認したことを発表した。
同成果は、阪大 産業科学研究所 産業科学AIセンターの浅井歩特任助教(常勤)(阪大大学院 医学系研究科 附属最先端医療イノベーションセンター兼務)、阪大大学院 医学系研究科 附属最先端医療イノベーションセンターの今野雅允寄附講座講師(東京理科大学 生命医科学研究所兼務)、阪大大学院 医学系研究科の尾崎みゆ希氏、同・川本弘一医学博士(厚生労働省 近畿厚生局兼務)、同・千々松良太特任助教(常勤)、同・近藤信昭氏(HIROTSUバイオサイエンス兼務)、HIROTSUバイオサイエンスの広津崇亮代表取締役(阪大大学院 医学系研究科 兼務)、阪大大学院 医学系研究科 疾患データサイエンス学の石井秀始特任教授(常勤)らの、産学連携活動を行う共同研究チームによるもの。詳細は、生物医科学を扱う学術誌「Oncotarget」に掲載された。
膵臓から発生した悪性腫瘍は膵がんというが、一般的には膵管がんのことを指す。膵管は膵臓と総胆管をつないでおり、膵臓で作られた膵液を十二指腸まで運ぶ管で、膵管がんはその膵管上皮から発生し、膵臓にできる腫瘍性病変の80~90%を占めているとされる。
こうした膵がんは発見しにくい上に、早期から浸潤や他臓器への転移を来すため、予後が不良であることから、特に早期に発見してすぐに治療を開始することが重要であることが指摘されている。
しかし現在、膵がんに対する既存の検査手法である腫瘍マーカーも陽性率が十分でなく、画像検査でも検出が困難な状況にあり、早期診断法は確立されているとはいえない状況となっており、有用な手法の開発が求められている。
モデル動物として生物学の領域で広く用いられている線虫「C.elegans」は、においを感受する能力が優れていることが知られており、「がんのにおい」をかぎ分けることができるとする研究報告も複数だされているほか、研究に参加したHIROTSUバイオサイエンスではまさに線虫がん検査技術の研究開発が進められている。そうした背景から、今回の研究では、線虫嗅覚を用いた膵がん患者の尿からがんの存在を検出する方法の検討を行ったという。
その結果、線虫は早期膵がん患者の術前と術後の尿を有意に識別できることが判明したほか、健常者を加えたブラインド試験においても、識別可能なことが確認されたという。また、線虫の嗅覚を用いた今回の検査技術が、従来の標準的な腫瘍マーカーより優れた性能を持つことが統計的にも示され、今後、膵がんの早期診断法として応用される可能性が示されたと研究チームでは説明しており、難治がんを診断する方法として、今後の発展が期待されるとしている。