国立がん研究センター 研究所 早期診断バイオマーカー開発部門の本田一文ユニット長らの研究チームは、膵臓がん(以下、膵がん)を引き起こす可能性の高い、慢性膵炎・膵管内乳頭粘液性腫瘍などの疾患、および早期の膵がんを効率的に発見する検診法の開発を目指し、新しい血液バイオマーカーを用いた試験的膵がん検診の検証を行う臨床研究を、鹿児島県で行われる地域健康診断において7月より実施することを発表した。期間は2017年7月~2019年3月。目標参加者数は5,000人~1万人(50歳以上の男女)。
膵がんは、早期発見が難しく、5・10年生存率は固形がんで最悪となっている。検診での採血による効率的な検診法を確立できれば、膵がんによる死亡率の低下が期待できる。国立がん研究センターでは、膵がんのリスク疾患や膵がんを早期発見するための血液を用いたバイオマーカーの開発に取り組んでいる。
この新しいバイオマーカーは、血液中の「アポリポプロテインA2(apoA2)アイソフォーム」というタンパク質で、同研究所や米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)との共同研究において、膵がんを引き起こす可能性の高い疾患や早期の膵がんを検出することの有効性が評価され、検査キットも開発されている。
この研究成果を踏まえ、2015年から神戸大学などと共同で膵がん検診研究を試行し、膵がんのリスク疾患や膵がんを発見できることが確認された。しかし、先行研究では、血液バイオマーカー検査で陽性反応がみられても、精密検査を受ける被検者が少ないなど、バイオマーカーの有用性を科学的に証明するのに必要なデータを確保できなかったという。
7月より実施される臨床研究では、血液によるバイオマーカー検査とバイオマーカー陽性者は、その後の造影CT検査による精密検査をセットで受検することになる。具体的には、検診で採血した7mlを用い、1次スクリーニング検査として血液中のアポリポプロテインA2アイソフォームの濃度バランスを計測。結果は被験者に知らせ、異常が見られた場合は精密検査(2次検査)として、造影CT検査を受検する。そして、1次スクリーニング検査陽性者の中から、どれくらいの頻度で膵がんのリスク疾患や早期膵がんが見つかるのか、その陽性反応適中率を調べるとしている。