名古屋大学(名大)は8月23日、アフリカにあるガンマ線望遠鏡「H.E.S.S.」の最新成果と星間ガスの解析結果を融合させた独自の新解析手法を適用し、超新星残骸「RXJ1713.7-3946」から届いた宇宙線の陽子・電子成分を分離することに成功したと発表した。また今回の研究結果は、100年来の謎だった「宇宙線陽子の起源」が超新星残骸にあることが示されたとした。
同成果は、名大大学院 理学研究科の福井康雄名誉教授、同・佐野栄俊特任助教(現・国立天文台 科学研究部 助教/国立天文台フェロー)、名大大学院 理学研究科の山根悠望子大学院生(研究当時)、同・早川貴敬研究員、同・井上剛志准教授、同・立原研悟准教授、豪州・アデレード大学のGavin Rowell氏、同・Sabrina Einecke氏らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
宇宙においてガンマ線が放射される仕組みは、宇宙線陽子起源と宇宙線電子起源の2種類が知られている。陽子起源の場合は、宇宙線陽子が星間陽子と衝突・反応することでガンマ線が放出される。一方の宇宙線電子起源の場合は、宇宙線電子がエネルギーの低い光子と反応することでガンマ線が放出されることが分かっている。
この高い運動エネルギーを持つ宇宙線陽子は、太陽の8倍以上の大質量星が生涯の最期に起こす超新星爆発によるものとする説が有力視されている。こうした超新星爆発を起こした大質量星の残骸のうち、宇宙においてガンマ線領域で最も明るく輝いているのが、さそり座の方向に地球から約3000光年の距離にある「RXJ1713.7-3946」で、この超新星残骸は、銀河系内にある宇宙線源の最有力候補として注目されており、さまざまな研究が進められてきたという。
今回の研究では、ガンマ線強度が星間陽子量と共に増加することが確かめられたこと、ならびに宇宙線電子量の増加によってもガンマ線強度が増加することが確認されたことを踏まえ、2種類の起源が合成することでガンマ線が放射されているというスキームのもと、その観測データの解析を進めたという。
具体的には、全ガンマ線強度を陽子起源と電子起源の2種類の和として表し、3種類の独立した観測量により統一的に理解できることが導き出されたという。
これにより、ガンマ線の割合は陽子起源が約70%、電子起源が約30%を占めることが判明。ガンマ線を起源別に分離することに成功したとする。
これにより、星間陽子の濃い領域では陽子起源が卓越し、薄い領域では電子起源が増加する様子が可視化されることとなったという。この結果は、ガンマ線の起源はどちらか一方というわけではなく、陽子と電子と2種類の機構が共に働いていることを示すものだとする。
また今回の3種類の独立な観測結果を融合させたスキームが適用できた背景としては、過去10余年にわたって蓄積されたガンマ線望遠鏡「H.S.S.S」(High Energy Stereoscopic System:ヘス)によるデータによるところが大きいという。
なお、これまでもガンマ線解析により陽子起源を示唆した研究もあったが、いずれもガンマ線と星間陽子との関係を十分な分解能で立証できていなかったため、陽子起源の確証とはなっていなかったという。それに対して今回の研究は、陽子起源のガンマ線の確証が得られた画期的な成果であり、先行研究と一線を画すものだとする。
研究チームでは今後、「宇宙線の起源」=「超新星」という理解が、さまざまな銀河系内外の高エネルギー現象研究において、広く普及することが予想されるとするほか、現在建設が進んでいる次世代ガンマ線望遠鏡「CTA」の完成により、宇宙線研究の新時代が開かれることが期待されるとしている。
2021年8月24日訂正:記事初出時、佐野栄俊氏のお名前を誤って佐藤栄俊氏と誤って記載しておりましたので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。