日立システムズは8月18日、記者会見を開き、医薬・ヘルスケア領域における中期事業戦略を発表した。同社は、政府が掲げる予防から治療までを切れ目なく提供できる連携体制の実現を支援し、国民一人ひとりの健康寿命の延伸や国が負担する医療費削減への貢献を狙う。
少子高齢化の進行とともに、平均寿命と健康寿命のギャップによって、国が負担する医療費は年間43兆円まで増大している。そこで政府は国民の健康寿命を延伸させるために、予防から健診、検査、診断、治療までを含めた医療提供のサイクルにおいて切れ目のない連携体制の整備を進めている。
しかし現状では、医療提供のサイクルの各段階に対する個別のサービスは存在するものの、複数の段階をまたいだサービスや、複数の事業者に対応するサービス、およびそれらから得られる医療情報を一元管理して包括的に提供するサービスは限られている。また、医療情報を一元管理するプラットフォーム基盤は法規制やセキュリティ基準を満たす必要があるため、導入の障壁は高い。
こうした背景を受けて同社は、法規制やガイドライン、およびセキュリティ基準を満たしながらも、健診から介護までを包括した切れ目のないサービスの提供を目指すとのことだ。具体的には、日立グループの各社と連携することで、医薬品業界のRPA(ロボティックプロセスオートメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する。さらに、2023年度までに治療目的のソフトウェア(DTx)の開発にも着手するという。
同社の産業・流通事業グループ 産業・流通情報サービス第一事業部 第五システム本部 担当本部長の相樂泰弘氏は記者会見の中で、同社の強みとして、政府が掲げる予防から治療までを切れ目なく提供できる連携体制、東京大学センター・オブ・イノベーション「自分で守る健康社会拠点」(東京大学COI)が開発した AI を用いた行動変容促進システムの活用、法規制に準拠したクラウド基盤の3点を挙げた。
同社はこれまで、CSV対応のクラウドサービスや、AWS環境における医療情報の適正かつ安全な取り扱いをはじめとして、医療情報システムのさまざまな要件に対応するための考え方や、関連する情報を整理した各種リファレンスを提供している。さらに、これらのリファレンスは厚生労働省、総務省、経済産業省が定めるガイドラインにも対応しているという。
こうした知見を活用して、同社は医療情報システムにおけるAWS環境の活用を促進するとともに、医療情報を取り扱う場合のセキュリティ対策や安全管理などを意識したクラウドシステム構築の支援、システムコストの最適化、運用管理の効率化を支援する各種ITサービスを広く提供していく。
また、同社は2020年4月より、インテグリティ・ヘルスケアと提携して、自治体、健康保険組合、企業などに対しセキュアなクラウド基盤上でオンライン診療や服薬指導、PHRサービスを連携することで医療情報の一元管理と健康支援サービスの開発に取り組んでいる。
一元管理された医療情報に対して、東京大学COIが開発したAIを用いた生活習慣関連疾患に関するリスクを可視化する行動変容促進システムを活用する。このシステムは、健康診断の結果から疾患リスクを予測し、オンラインでの保健指導を可能であるほか、専門家監修による医学的根拠に基づいた日常生活の評価や個々の状況に応じたアドバイスをスマートデバイス上で提供して、利用者の行動変容を促すのだという。
さらに同社は、パートナー企業と連携したサービスの提供を狙っている。2023年度までに、複数社と連携したサービスを提供することで、健診から介護までの情報を連携して包括的な治療を受けられる体制を段階的に構築するとのことだ。なお、同年度までに100憶円の売り上げを目指す。