宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月5日、太陽光の入射量から計算すると-73℃ほどになるはずが、約420℃もの異常高温を木星大気にもたらす熱源がオーロラであること示すことに成功したと発表した。
同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)のジェームズ・オダナヒュー氏(NASA ゴダード宇宙飛行センター兼務)、米・ボストン大学 宇宙物理学センターのL. Moore氏、同・T. Bhakyapaibul氏、英・レスター大学のH. Melin氏、同・T. Stallard氏、NASA ゴダード宇宙飛行センターのJ. E. P. Connerney氏、情報通信研究機構の垰千尋研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
木星は、太陽から見た場合、地球よりも遠い位置にあり、太陽光の入射量も地球と比べると少ないため、入射量から計算すると本来の木星高層大気は寒冷であり、-73℃ほどと推測されていた。
しかし、実際の観測値は420℃という、太陽系内の惑星でいえば、金星の地表面付近の気温に匹敵するような、“鉛も溶ける”気温となっており、その理由については半世紀にわたって謎のままで、科学者たちは「エネルギー危機(energy crisis)」と呼んできた。
そこで研究チームは今回、その50年来の謎を解明すべく、ハワイ島マウナケア山頂にある10mの口径を持つ「ケックII望遠鏡」(すばる望遠鏡のすぐ隣にある、米・カリフォルニア大学、米・カリフォルニア工科大学、NASAが運営する双子の望遠鏡の片割れ)で観測を行い、木星高層大気の謎に迫ることにしたという。
観測は2016年4月および2017年1月に、それぞれ5時間ずつ行われた。ケックII望遠鏡に搭載された「近赤外線分光器」(NIRSPEC)を用いて、木星大気中のH3+イオンからの輝線が極域から赤道までの全緯度において検出された。H3+イオンは木星高層大気(電離層)の主成分であり、輝線の強度からその領域の温度を導き出すことが可能だ。
その結果、可能な限り高い空間分解能を追求しつつ不確定性も排除された分析に最適なマップが完成。分析に年単位の時間がかかり、最終的に1万を超えるデータポイントからなる温度マップが作成されたという。
完成した木星高層大気の温度マップから、高緯度のオーロラ領域から赤道に向かって温度が低下していくことが判明。高緯度で加熱された大気が惑星風によって低緯度へと運ばれることで、オーロラにより持ち込まれたエネルギーが木星全体を循環しているということを示しているという。
オーロラが木星大気の異常高温の原因である可能性は、以前から提案されていたが、これまでの木星高層大気の全球モデルにおいては、木星の速い自転(木星の1日は10時間を切る)による影響のため、赤道向きの風は西向きに曲げられてしまい、大気全体を加熱することにはならないと考えられてきたという。
ところが今回の新しい観測結果によると、そのような強い風により曲げられてしまうことは起きておらず、極域から低緯度に吹き出す成分が従来の予想よりも強いものであるということが示されたのとする。
また、JAXAの惑星分光観測衛星「ひさき」は2013年の打ち上げ以降、現在も地球周回軌道から木星のオーロラを観測し続けている。長期間にわたる観測により、木星のオーロラは太陽風の影響を強く受けていることがわかってきた。より強い太陽風が木星の固有磁場と衝突すると木星側の磁場が強く圧縮され、木星オーロラが増光するという。
研究チームは今回、この強まった太陽風との相互作用の結果として生じる強い大気加熱の証拠も見出したという。増光したオーロラを起源にして、高温領域が低緯度へと伸びている様子が観測されたのだという。
観測時、木星では太陽風が極めて強い状態にあり、その結果としてオーロラも強くなっていたとのことで、それもあり低緯度に向かって高温帯が伸びていく様相を捉えることができたとする。
今回の発見により熱源がオーロラと同定され、木星の「エネルギー危機」を終わらせることができる可能性が出てきた。木星のような強いオーロラは、巨大ガス惑星全般に期待される現象だ。その一方で、さまざまな要素により惑星風の状態が決まることを考えれば、それぞれの巨大ガス惑星で大気加熱源としてオーロラの役割は多種多様に異なっている可能性もあるとしている。