千葉工業大学(千葉工大)、金沢大学(金大)、福井大学の3者は7月28日、産学官連携プロジェクトで開発した「幼児用脳磁計」を活用して絵本を読み聞かせ中の子どもの脳反応を調べたところ、読み手の親密性(母親かそうでないか)によって異なることを明らかにしたと発表した。
また、母親の読み聞かせ中には、他人の読み聞かせと比較して脳内ネットワークの強度が高まり、より効率的な脳活動状態になっていることが示されたことも合わせて発表された。
同成果は、金大 子どものこころの発達研究センターの長谷川千秋協力研究員(日本学術振興会)、魚津神経サナトリウムの高橋哲也副院長(金大 子どものこころの発達研究センター 協力研究員/福大 医学部 精神医学 客員准教授兼任)、金大 子どものこころの発達研究センターの池田尊司助教、金大 医薬保健研究域 医学系精神行動科学の菊知充教授、千葉工大 情報科学部情報工学科の信川創准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、脳画像からの脳研究を扱ったオープンアクセスジャーナル「NeuroImage」にオンライン掲載された。
読み聞かせが、子どもの言語能力、認知能力、社会性の発達を促進させ、プラスの作用をもたらすことはこれまでの研究から報告されているが、子どもの脳やその発達に与える影響については、脳画像研究の分野という視点では充分な研究が進んでいるとはいえないという。
特に、読み聞かせ中の脳内では、一次的な視覚・聴覚情報処理から、ストーリー理解や共感などの高次処理まで、さまざまな認知処理が複数の脳部位を巻き込んだ脳内ネットワークの下で行われる。そのため、子どもが話に夢中になって目を輝かせて聞き入っているとき、その脳の中では非常に複雑な活動が行われていると考えられている。
そこで、今回の研究では幼児用に開発された放射線を用いず、狭い空間に入る必要のないMEG(脳磁図)を活用し、読み聞かせが子どもの脳に与える効果の解明に挑んだという。
具体的には、母親と見知らぬ他人が絵本の読み聞かせを行っている間の4歳から10歳の発達障害の既往がない定型発達の子どもたち15名を対象に脳活動の計測を実施したという。
その結果、母親の読み聞かせ聴取時には、アルファ波帯域の脳内ネットワークの強度が脳全域において強くなっていることが明らかとなったほか、母親の読み聞かせ聴取時のアルファ帯域の全脳ネットワークは、局所的な分離度が高く、大域的な統合度が高いというスモールワールド性が示され、効率の良いネットワーク構造であることも判明したという。表情評価による行動解析の結果については、母親条件では他人条件と比べて子どもの集中度が高く、よりポジティブな表情(例、笑顔)を見せることも確かめられたとしている。
またこれらの行動指標は、母親条件のみで脳内ネットワーク指標(ネットワーク強度とスモールワールド性)と有意に相関していることも判明。グラフ理論をMEGデータに適用することで、読み聞かせ中という自然な環境下においても、親密性に関連した子どもの脳反応と行動反応に関する有益な知見が得られる可能性が示唆されたとしている。
なお、研究チームでは、今回は、母親と検査者の比較焦点を絞って研究が行われたが、父親やほかの養育者、また保育士や教員といった家族以外の親しい大人の読み聞かせの効果についても、検証していくことが必要としているほか、今後は、子どもの言語能力、認知能力、社会性を高めるために、より効果的な読み聞かせはどのようなものなのか、さらなる研究が必要とされるとしている。