東京大学(東大)とIBMは7月27日、IBMのゲート型量子コンピューティング・システム「IBM Quantum System One」を日本で稼働開始させたことを発表した。
同システムの稼働は、2019年12月にIBMと東大が発表した「Japan–IBM Quantum Partnership」に基づくもので、東大が占有使用権を有し、同大の研究者ならびに学生、共同研究を行うアカデミアや産業界の研究者たちが活用していく予定となっている。
記念式典で登壇した東大の藤井輝夫 総長は、「量子コンピュータの社会実装を世界に先駆けて実現する」ことを目指すと述べ、現在、世界中でいまだに感染拡大が止まらない新型コロナウイルス感染症や、気候変動による災害など、人類全体に課題が突きつけられている時代であることを指摘。「世界の中では分断や差別が広がり、社会の閉塞感があらわになってきた。そうした時代にあってこそ、大学の社会に対する役割が高まっている。大学こそが新たな知恵を創出し、さまざまな困難を乗り越える道を示すべき。量子コンピュータは、そうした新たな大学の地位に裏付けられるものであり、既知の問題を高速に解くだけでなく、未踏の問題の解決にもつなげられる可能性がある」とし、日本に設置されたQuantum System Oneが、その重要な礎となるとした。
設置場所は神奈川県・川崎市の「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)」で、日本企業やアカデミアが占有する形で活用するほか、これまで米国の量子コンピュータを活用していたユーザーにとっても、データを送らないため、アクセス速度の向上が見込めるとする。また、メンテナンスや保守のためのエンジニアも日本に滞在するため、ユーザーとの連携もしやすくなることが期待されるとしており、東大としても、2021年6月に浅野キャンパス内に設置した量子コンピュータ技術の研究・開発を行うハードウェア・テストセンター「The University of Tokyo - IBM Quantum Hardware Test Center」との連携など、量子コンピュータの周辺技術の研究開発も進めていくとしている。
今回、導入されたQuantum System One(プロセッサはIBM Quantum Falcon)は27量子ビットのシステムだが、IBMでは今後のハードウェア・ロードマップを公開しており、1000量子ビットを超えるデバイス「IBM Quantum Condor」を2023年末までに実現することを目指している。
なお、東大では、量子コンピューティングのためのエコシステムの構築を世界に先駆けて、日本独自の形で構築することを目的に設立した「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)」の会員企業向け交流・情報共有の場となることを目指す「コラボレーションセンター(仮称)」を2021年8月中旬をめどに東大本郷キャンパス内に設置する予定だとしている。