宇宙航空研究開発機構(JAXA)と天地人は7月12日、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」のもと、「宇宙ビッグデータ米の栽培における『しきさい』由来の水田環境プロダクトの開発」に向けた共創活動を開始したと発表した。

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    今回の「宇宙ビッグデータ米の栽培における『しきさい』由来の水田環境プロダクトの開発」のイメージ。宇宙からの目で水田の水管理を行う (C)JAXA(出所:JAXA Webサイト)

天地人は、JAXAの職員らが設立した、JAXAの知的財産や知見を利用して事業を行うJAXAベンチャー(JAXAのスタートアップ企業)として認定されている企業。同社は、宇宙ビッグデータを活用し、土地の価値を明らかにしていくことを目的として設立された。また今回のプロジェクトは、JAXAベンチャーとJ-SPARCプログラムによる初の共創活動事例となるという。

今回の共創活動は、JAXAの気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)が取得するデータに対する新たな解析アルゴリズムを共同で開発することで、水田の水管理に必要な情報の取得を目指そうというもの。衛星観測によって得られた生データを、物理的に意味のある数値に変換したデータのことをプロダクトとしている。

稲作では、朝夕の水田の様子を確認する作業が不可欠だが、それが農家の負担になっている。また、人による見回りでは限られた時間内に移動できる距離に限界があり、時々刻々変動する水田環境の変化に対する最新の情報を得ることが難しいことが課題となっていた。

2017年に打ち上げられた気候変動観測衛星「しきさい」は、19種類の波長の光を捉える光学センサを搭載しており、植物の活性度、地表面温度のほか、大気中の微粒子なども含めた地球物理量を、太陽同期準回帰軌道(高度約800km)からモニタリングしている。今回の取り組みでは、「しきさい」が捉えたそうしたさまざまな客観的なデータを用いて稲の栽培環境をモニタリングすることで、タイムリーな水量管理を実現させ、農家の負担を軽減することを目指している。

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    「しきさい」のイメージ。幅16.5m×奥行き4.6m×高さ2.5m、質量約2トンの大型衛星。プライムメーカーとして設計・製造を担当したのはNEC。搭載されている多波長光学放射計は、近紫外線から可視光線を通って赤外線までの広い波長域を19の領域(チャンネル/バンド)に分けて観測することが可能。太陽からの光の角度が常に同じになる「太陽同期軌道」と、地球を1周する度に観測地域が少しずつずれていって数日後に再び同じ場所の上空を通過する「準回帰軌道」を組み合わせた「太陽同期準回帰軌道」を巡っている。高度は約800km (c) JAXA

なお、両者の役割分担としては、JAXAは、これまで数々の地球観測衛星を開発してきた技術力、それらの運営マネジメント力などを活かし、衛星データに対して新たなアルゴリズムを開発することで、高付加価値な情報の抽出を目指す。一方の天地人は、地球観測衛星のデータを元にした独自の土地評価エンジン「天地人コンパス」を活用することで、衛星データからビニールハウス内の作物に対する日射量を推定するプロジェクトや、キウイフルーツなどの作物の新規圃場の検討など、農業に関わるプロジェクトを進展させてきており、今回も現場のニーズを満たすプロダクトの開発を行うことで、農業の意思決定に貢献する情報の提供を目指すとしている。

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    「しきさい」が2021年1月に撮影したアルゼンチン北部の農業地帯。作物が栽培されている区画とそうでない区画がくっきりと分かれていて、また作物の成長段階によって緑の濃淡があることも見て取れる (c) JAXA

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    2017年の打ち上げ前に公開された「しきさい」 (編集部撮影)