科学技術振興機構(JST)は、6月24日にJST理事長記者会見を開催し、政府がJSTに設置した大学ファンドの運営担当責任者として、農林中央金庫で常務執行役員を務めていた喜田正和氏が運用業務担当理事に6月1日付で就任したと公表した。

濵口道成理事長は、「大学ファンドはこれまでのJSTが担当したことがない事業内容・業務になるため、外部から適任者を招いた」と解説し、喜田理事を紹介した。

  • 喜田正和氏

    運用業務担当理事に就任した喜田正和氏(引用:JST)

2021年4月から内閣府の大学ファンド資金運用ワーキンググループが議論を重ねた中で、10兆円規模の大学ファンドをJSTに設置すると決まり、その運用体制の構築を始めていた。

  • 大学ファンドの見取り図

    内閣府が示している大学ファンドのスキーム(引用:内閣府)

喜田理事は、「これからは優秀なファンド運営マネージャーを(外部から)集めて、十分な運用体制を築きたい」と述べた。

現在は、政府の令和第3次補正予算から0.5兆円が大学ファンドに出資され、その後に財投融資から4兆円が出資される見通しになっている。その後に、約10兆円規模まで増やす計画だ。この約10兆円規模の資金を50年間運用する計画になっている。

大学ファンドは、その運用益を基に日本の研究大学と呼ばれる大学の研究基盤などの抜本強化を図ることを目指している。当面の目標は、大学院博士課程に進学する学生数を増やし、日本の研究開発力の基盤・人材を向上させることだ。。

日本の大学院の修士課程修了者は2000年当時には約17%が博士課程に進級していたが、2018年時点では9%まで低下したというデータがあり、日本の大学院博士課程の学生を増やすことが大きな課題になっている。

日本では、世界各国の研究開発力を示す指数である「Top10%論文数」が10年前では第4位だったが、ここ10年で順位を下げ、2016年から2018年の最新データでは、第11位となっている。

当面は、大学ファンドの運用益から、日本の大学院への博士課程進学者に生活費相当額を一定数の対象者に支給することを目指す。

文部科学省の先導的大学改革推進委託事業での調査研究では、1年間に180万円以上の経済的な支援を受けている者の割合は博士課程進学者の約10.4%だった。これまでもこの割合を20%以上に高めることを目指してきたが、これまではあまり改善されてこなかった。

このことから今回、政府は「大学ファンド」を設けることで、最終的には博士課程の学生の半数程度を経済的に支援することを目指すとしている。

さらに、欧米の有力な研究大学は、学内にこうした「大学ファンド」を持って運用していることから、将来的には日本の研究大学自身が「大学ファンド」を持って運営する仕組みを持つなどの、日本の研究大学の大学基盤整備を進める大学・大学院改革も目指すとしている。