愛媛大学は5月25日、惑星の材料物質と考えられるコンドライトと似た組成の試料を用いた高圧実験を行い、分化した液体金属核と溶融マントルを持つ微惑星環境を再現し、マントルに分配される炭素量の見積もりを行ったところ、溶融マントルには飽和に近い量の炭素が分配されることを明らかにしたと発表した。
さらに、マグマの炭素溶解度は地球や月といった天体のマントルで推定されている炭素量とよく一致し、地球や月のマントルに含まれる炭素量を説明する上で、核形成後に炭素に富む天体を降着させる必要がないことを明らかにしたことも発表された。
同成果は、愛媛大 地球深部ダイナミクス研究センターの桑原秀治助教、京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻 宇宙地球化学分科 宇宙地球化学講座の伊藤正一准教授、同・鈴村明政大学院生、海洋研究開発機構 高地コア研究所 中田亮一研究員、愛媛大 地球深部ダイナミクス研究センターの入船徹男教授(センター長兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球科学を題材にした学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
惑星形成理論によると、約46億年前、地球をはじめとした岩石天体は、原始惑星系円盤の中で小さな塵状の物質が互いに衝突・合体を繰り返して徐々に巨大化し、やがてそのうちの最も大きくなった(もしくは生き残った)4つが水星から火星までの地球型惑星となったと考えられている。
まずキロメートルサイズの微惑星が無数に形成され、それらが集積して水星サイズもしくは火星サイズの原始惑星が多数形成され、さらにそれらによる激しい衝突・合体のカタストロフを経て現在の太陽系に至ったとされる(地球と金星は原始惑星が衝突・合体して今のサイズになったとされるが、火星は原始惑星そのままとする説もある)。
微惑星のサイズになってくると、まだ天体として惑星に比べれば格段に小さいとはいえ、その形成段階では天体内部の放射壊変元素や微惑星同士の衝突・合体に伴うエネルギーから得られる熱によって、内部が溶融していたと考えられている。場合によっては、表面まで溶けた全球がマグマオーシャン状態だったものもあるだろう。
この過程において、鉄(およびニッケルなど)とケイ酸塩が分離し、重い金属が沈んで核となる。そして軽いケイ酸塩のマントルが、その外側に形成されたと考えられている。金属核とマントルに分離した後、両者の間では元素分配が起こり、親鉄性元素がマントルから除去された(金属核に奪われた)という。
これまで、溶融した原始惑星や微惑星の天体内部で分離する液体鉄とマグマ間の炭素分配を実験的に調べた研究が行われてきた。しかし、マントルに分配される炭素量が、現在の地球マントルで推定される炭素量よりも非常に少ない結果が導かれ、矛盾が生じていた。こうしたことから、地球マントルに含まれる大部分の炭素がいつ、どのようにもたらされたのかが大きな謎となっていたのである。
これまで行われてきた実験には、実は問題点もあったという。グラファイトカプセルが使用されていたため、試料中の炭素が飽和した状態だったのだ。ところが、地球の材料物質と考えられているコンドライトに含まれる炭素量を考えると、地球全体が炭素で飽和している可能性は低いという。さらに、二相間の元素分配は圧力温度条件が同一であっても、対象元素の濃度によって変化することがわかっていた。つまり、先行研究の実験結果を直接、地球のような岩石天体に適用させることには注意を払う必要があったのである。
このような問題点があるにもかかわらず、液体鉄-マグマ間の炭素分配に対する試料中における炭素濃度の影響は、これまでまったく研究されていなかった。そこで共同研究チームは今回、グラファイトカプセルの代わりに二酸化ケイ素(SiO2)ガラスカプセルを使用して、炭素未飽和条件下における液体鉄-マグマ間の炭素分配実験を実施することにしたとしたという。
その結果、地球材料物質と考えられているコンドライトと同程度の炭素量を含む試料において、マグマに分配される炭素量は、グラファイトカプセルを使用した炭素が飽和した場合と同程度であることが判明。このことは、微惑星がコンドライトと同程度の炭素量を含んでいた場合、そのマントルには飽和に近い量の炭素が分配されていたことを示唆しているとする。
また、微惑星同士の合体過程において金属核とマントルの混合が効率的でなかった場合、微惑星が衝突・合体してできる原始惑星のマントルにも同程度の炭素が保持されることが予想されるという。
実際、金属鉄と共存下にあるマグマの炭素溶解度について、地球や月マントルで見積もられている炭素量と比べられたところ、両者が非常に調和的であることが明らかとなった。今回の研究で提案された「炭素でほぼ飽和した微惑星マントル」仮説は、地球や月といった天体のマントルに含まれる炭素量をよく説明することができるという。地球や月のマントルに含まれる炭素量を説明するために、核が形成された後に炭素に富む天体が衝突したことを考える必要はないとした。今後、今回の仮説を検証するため、より高圧下での実験が望まれるとしている。