京都大学(京大)は5月21日、マラソンなどの長時間の激しい運動が、血中の免疫細胞動態を変化させ、抗ウイルス免疫の増強にも減弱にも作用し得ることを、動物モデルを使った実験で突き止めたと発表した。
同成果は、京大大学院 医学研究科の足立晃正助教(現: 京都医療センター医師)、同・本田哲也講師(現:浜松医科大学教授)、同・椛島健治教授らの研究チームによるもの。詳細は、国際学術誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」にオンライン掲載された。
一般的に、スポーツはメタボリックシンドロームなどの生活習慣病に有効とされ、老若男女問わず身体を動かすことが推奨されており、激しい運動をしている人の方が風邪をひきにくくなるというデータもある。
そのため、スポーツ選手などは健康そうに思われるが、マラソンなどの長時間の激しい運動後にランナーが風邪をひきやすくなるなど、激しい運動は抗ウイルス免疫を低下させる可能性も多く報告されており、長時間の激しい運動が抗ウイルス免疫に良い影響を及ぼすのか、悪い影響を及ぼすのかについては長年にわたって議論が続けられており、決着がついていないという。
また、激しい運動をすると血液中の白血球数が一過性に変動することも知られているが、その変動が抗ウイルス免疫にどのように関連するのかも不明だったとする。そのため、研究チームは激しい運動が抗ウイルス免疫に対して良いのか悪いのかについて検討し、さらにそのメカニズムを解明するために今回の研究を実施することにしたという。
今回の実験では、ヘルペスウイルスに感染させたマウスに激しい運動をさせ、それがウイルス感染症状にどのように作用するかについて、さまざまな条件で検討が行われた。
その結果、ウイルスを感染させてから8時間後に、長時間の激しい運動をしたマウスでは、抗ウイルス免疫が増強してヘルペスウイルス感染症状が軽減していることが確認されたが、ウイルス感染させてから17時間後に長時間の激しい運動をしたマウスでは、逆に抗ウイルス免疫が低下してヘルペスウイルス感染症状が増悪することも見出されたという。
そこで運動による血液中における免疫細胞の変動を調べたところ、運動中に抗ウイルス免疫細胞「形質細胞様樹状細胞」(pDC)が血液中から骨髄へと移動し、血液中のpDC数が一過性に減少することが確認された。その結果、感染局所に浸潤するpDC数が低下し、十分なウイルス防御能を発揮できず、感染症が悪化することが明らかとなったのである。
一方で、運動が終わってから6~12時間後には血液中のpDC数は一過性に上昇し、感染局所へのpDC浸潤数も増加し、ウイルス防御能が増強されて、感染症が改善することも確かめられた。つまり、ウイルスに曝露(感染)したタイミングと、激しい運動をするタイミングの問題となるようだ。
そして、これらのpDCの血液中での挙動は、運動中に副腎皮質から産生されるホルモン「グルココルチコイド」が原因であることが判明。この研究成果により、マラソンなどの長時間の激しい運動が抗ウイルス免疫に及ぼす影響とそのメカニズムの一部が解明されることとなった。運動が抗ウイルス免疫に与える影響は、ウイルス曝露からのタイミングによって正にも負にも作用し得る。運動が人の健康に与える影響を理解するうえで、今回の研究結果は重要な意義を持つと考えられるとしている。
また今回の研究結果は、運動により抗ウイルス免疫を効果的に増強させる治療や予防戦略に応用できる可能性があるという。今後は、ヘルペスウイルス以外のウイルス感染症での検討や、人でも同様の現象が起きているのかを確認する必要があるとしている。