初代iPhoneが登場してから2021年で14年。その進化と共に、ARを使ったアプリやサービスも成長を続けてきた。ハード・ソフト両面からみたiPhoneの進化をARの視点で紐解いてみよう。

初期iPhoneのARアプリヒット作「セカイカメラ」

iPhone向けARアプリで最初の大きなヒットといえるのが、2009年リリースの「セカイカメラ」だ。このアプリは、カメラ越しに風景にARの「エアタグ」とよばれるラベルを追加できるものだった。エアタグにはテキストや写真、音声データなどを含めることができ、アプリを起動すると、他のユーザーがその場所に追加したエアタグが空中に浮かんで見える。

iPhone普及期の物珍しさも手伝って多くのユーザーに利用され、2014年のサービス終了までの5年間に、自治体との連携で地域の観光情報を表示する取り組みや、企業のキャンペーンでの活用などが多数行われた。

なお、セカイカメラのリリースと同年に発売されたiPhone 3GSでは、iPhoneで初めてデジタルコンパスが搭載された。また、カメラも前モデルのiPhone 3Gが2MPだったのに対して、3MPに向上。オートフォーカス機能も初めて搭載されるなど、カメラとして“普通に使える”レベルとなった。それに加えてプロセッサ性能も向上したことで、iPhoneのカメラを使ったアプリを作りやすくなった時期でもある。

ARアプリの浸透に寄与した「ポケモンGO」

ARが広く認知される契機となったのは、2016年のポケモンGOブームだろう。米調査会社Sensor Towerの調査によると、同アプリは米国でのリリースから7日で1000万ダウンロードを突破、リリース初月に2億ドル超の収益を達成している。さらに、2020年1月から10月までの10か月間の収益は前年比30%増の10億ドル、生涯収益は24億ドルに達するなど、現在も広く楽しまれる定番ゲームアプリに成長した。また、この頃にはApp Storeで提供されるARアプリも増え、ARが身近な技術となっていった。

ARアプリの利用範囲を広げた「ARKit」

2017年にはAppleが開発者向けフレームワーク「ARKit」をリリースし、ARアプリを制作しやすい環境が整った。

ARKitでは、iPhoneのカメラとモーションセンサーを使って平面を認識させ、空間上にARのオブジェクトを配置できる。これによって、メジャーを表示させて空間の長さを測るアプリや、室内にARの家具を配置して購入後のイメージを確認できるアプリなどが登場。ゲームなどのエンターテインメント分野だけでなく、実用的なツールにもARが使われるようになっていった。

「LiDARスキャナ」でより高度な開発も可能に

2020年春には、iPad Proに深度測定が可能な「LiDARスキャナ」が初搭載。同年秋発売のiPhoneシリーズの上位モデルにも搭載された。LiDARスキャナに使われているLiDARは、光の反射を利用して対象物までの距離や位置、形状などを測定できる技術。物体の奥行きなどの三次元の情報を取得できるため、室内の状況をより短時間で正確に把握できるようになった。

これはアプリの使い勝手向上にも寄与する。たとえば、iPhone標準の「計測」アプリを使う際、従来の端末では最初にiPhoneを左右に動かして床を認識させる必要があった。LiDARスキャナ搭載端末の場合はこの操作が必要なくなり、アプリ起動と同時にすぐに計測を開始できる。例えばTiktokやSnapchatなどのSNSでは、早くもLiDARを活用したAR体験ができるカメラ機能が取り入れられて話題になった。

さらにARKitでは、LiDARスキャナを使った「オブジェクトオクルージョン」の利用も可能になった。これは、現実の物体とARオブジェクトの前後関係などを正しく認識できる技術で、従来よりも正確でリアルなAR表現が可能になる。

iPhoneはこれからも進化を続け、それに伴ってiPhoneでのARの使われ方もより高度化・多様化していくだろう。Appleからは今後数年以内にARヘッドセットが発売されることも噂されている。

著者プロフィール

村上智彦
愛知県出身、立教大学卒。
ビズリーチにて新規事業の立ち上げを担った後、2018年にAR技術に特化したスタートアップである株式会社OnePlanetを設立。
さまざまな業界の大手クライアントへのAR導入を多数実現。最先端のMRグラスを活用した自社アプリケーションも提供している。