化粧品開発の要、分散技術のイノベーション

マスクが必須となったwithコロナ時代で、”マスクにつきにくい化粧品”へのニーズが高まっている。 中でもファンデーションやBBクリームといった肌に塗布する化粧品は、そのニーズが高い。

そのニーズに応えるべく、資生堂は「新たな分散技術」を開発した。

メイクアップ製品は、ツヤ感を調整する役割をもつ板状粉末や、キラキラ感を出す役割を持つパール剤などさまざまな粉末を配合し、化粧品として用いる。 このさまざまな粉末を均一に化粧品に混ぜる技術を「分散技術」といい、化粧品の開発では要となる技術だ。

化粧品として用いる粉末は化粧もちを良くするために、水をはじく処理(疎水化処理)を行い使用することが多い。

疎水化処理粉末は、水をはじくという特性のため、化粧品への配合の際には油や界面活性剤を使用するのが一般的であった。

しかし、この手法だと、粉末の表面を油や界面活性剤が覆ってしまうため、べたつき感が出てしまうなどの使用感の問題や、粉末本来の自然なツヤや輝きを引き出せないなどの仕上がりの問題もあり、粉本来の特長を十分に発揮することができていなかったという。

そこで資生堂は、疎水化処理粉末を特殊な分散技術で油や界面活性剤に頼らずに、水に安定配合できる新技術を開発。これにより使用感と仕上がりの良さに特徴をもった新たな製品の開発が可能となった。

同技術は、日中用色つき美容液「マキアージュ ドラマティック ヌードジェリー BB」へと活用され、毛穴のカバーをし、つやのある肌に見せながらも、同時にマスクへのつきにくさもかなえるベースメイク用化粧品として 2020年11月より発売されている。

  • 新技術が搭載された「マキアージュ ドラマティック ヌードジェリー BB」

    新技術が搭載された「マキアージュ ドラマティック ヌードジェリー BB」

水をはじく粉末を水に安定配合する新技術

新たに開発した技術がどのようなものかわかる実験を見せてもらった。

まず、特別な処理を行っていない水の中に疎水化処理粉末を入れて混ぜると、粉末は水をはじくため表面に浮いてきてしまう。

  • 水と混ぜると表面に浮いてきてしまう

    水の中に疎水処理を行った粉末を入れて混ぜている様子。水とはなじまず、表面に分離してしまっているのがわかる

しかし、新たに開発した技術で処理した水に、疎水化処理粉末を混ぜると、水と粉末が分離せずに均一に混ざり合う。

  • 水と粉末が分散している様子

    新たな技術を用い、処理を行った水に疎水化処理粉末を混ぜた様子。粉末を水に加えて攪拌するとすぐに分散する

  • 右が水のみを使用したもの、左が新たな技術を用いたもの

    右が水のみを使用したもの、左が新たな技術を用いたもの

新技術を用いると見た目や使用感はどう変わる??

同技術を用いた化粧品はどのような特徴があるのだろうか。

最大の特徴は、従来技術では難しかった均一な塗布膜を形成することができる点だ。

  • 新技術を用いた化粧品の塗布イメージ

    新技術を用いた化粧品の塗布イメージ。従来技術に比べ、新技術では粉末が一定方向に配列し、均一な塗布膜を形成することができるという

均一な塗布膜が形成されると、光がパール剤に当たった際、反射光が返ってきやすくなるため輝きが強くなるなど、パール剤本来の輝きを発揮させることができるという。

  • 同量のパール剤を配合したモデル処方を肌に塗布して比較したもの

    同量のパール剤を配合したモデル処方を肌に塗布して比較したもの。新技術を用いたもののほうが輝きが強いのがわかる (提供:資生堂)

また、均一に肌に付くことで肌と粉末が密着するため、マスクへの色移りがしにくいというメリットもある。

  • 4時間経過後のマスクへの付着を撮影したもの

    従来技術を用いたファンデーション(左)と新技術を用いたBBクリーム(右)をそれぞれマスクに塗布し、4時間経過した後にマスクへの付着を観察したもの(※個人差あり)

もともと、粉本来の輝きやつや感を引き出すために研究していた手法だというが、コロナ禍で生まれた「マスクにつきにくい」という生活者のニーズにもこたえられるという事がわかり、ベースメイクへの応用を検討。各部門間で連携し、4カ月という異例のスピードで商品化まで進め販売に至った。

同技術開発を担当したのは、資生堂 みらい開発研究所の喜納貫研究員で、化粧品を通して楽しい会話が生まれてくるような、商品の見た目も仕上がりも綺麗で満足してもらえる化粧品を開発したいという想いで日々研究を行っているという。

喜納研究員は、「今回開発した新しい分散技術は、粉本来の特長を最大限に発揮させることができる技術で、マスクによる化粧崩れにも効果を発揮するものだ。処方開発をリードしていく技術としてさまざまな化粧品に展開していき、新しい価値をもった優れた化粧品を開発していきたい」と意気込みを語ってくれた。

時代の変化とともに生活者が化粧品へ求めるものも変わっていく。その変化への迅速な対応と良いものを提供したいという研究者の熱意が生み出した新技術。今後どういった化粧品に搭載されて、どのような商品として世に出てくるのかが楽しみだ。

  • 資生堂みらい開発研究所 シーズ開発センター プロセス開発グループの喜納貫研究員

    新技術の開発を担当した、資生堂みらい開発研究所の喜納貫研究員