スタートアップ拠点都市に選定された静岡県浜松市では、浜松市役所、浜松いわた信用金庫などが一丸となって、スタートアップ企業の地域創生としてのエコシステムを作り上げている。

この浜松型エコシステムを語る上で欠かすことができない重要なマインドセットがある。それは浜松に古くから息づく言葉「やらまいか」である。これは、「やってみよう」、「やってやろうじゃないか」ということを意味し、新しい事にチャレンジする精神を表す。

やらまいか精神こそが、世界に名だたる自動車、バイク、音楽などの多くの産業を産み出し、古くからものづくり起業家やグローバル企業を多数輩出してきた原動力と言われている。このスタートアップ都市に創業マインドを取り戻そうと再びプロジェクトがスタートした。

「この元祖スタートアップ都市に衝撃的な出来事が起きた。それはある年に浜松市で廃業社数が起業社数を逆転したのだ。これを一つの契機として、鈴木市長は、スタートアップを創出するための専門の部署を15年に立ち上げた」と、浜松市役所産業振興課ベンチャー支援担当は語る。

それとほぼ同じタイミングで、浜松市地域企業・経済を育成する役目も負う浜松いわた信用金庫は、創業者を育成/創出するための創業スクール、さらに創業者が集うビジネスコンテストのチャレンジゲートをスタート。

現在では、スクールを卒業したスタートアップ企業が次のスタートアップ企業のメンターとなり、次の芽を育む浜松型エコシステムが出来上がっている。

2020年12月8日、こうした浜松型エコシステムのキーマンを招聘し、「危機こそが最大のChance~Action trumps everything collaborating with やらまいか~」と題したビジネスイベントが浜松にあるInnovation Hubの”FUSE”にて開催された。以下、その模様をお届けしよう。

■登壇者
山川 恭弘(バブソン大学アントレプレナーシップ准教授)
ラジャ ゴピナート(スズキ eモビリティ開発グループ チーフエンジニア)
北嶋 秀明(浜松市産業部観光・シティプロモーション課 課長)
佐藤 真琴(PEER 代表取締役)
渡邉 迅人(浜松いわた信用金庫 新産業創造室 副調査役)
平岡 乾(ニューズピックス 編集部ジャーナリスト)

■モデレーター
曽根 圭輔(i-NNO CEO)

コロナ禍でチャレンジする人のマインドセットとは

曽根氏:今、世界では特徴ある都市ごとのスタートアップ・コミュニティの形成が進んでいます。日本でも地域ごとの特性と違いからイノベーションが生まれると考えられており、コロナ禍でリモートワークなど「起業家型社会(entrepreneurial society)」が加速しています。

その状況を踏まえたうえで、「Asset(地域の独自性)」「Cluster(集積を生み)」「Connect(外部との交流)」の3つが地域でアントレプレナーを生む上での重要な要素ではないかと考えられるでしょう。

浜松はこの3つの要素が満たされると言えます。

Assetは「やらまいか!」。Clusterは数多くの製造業の会社が集積していること。ConnectはまさしくこのFUSEを拠点とした場です。つまり、浜松にはエコシステムが既に出来上がっているので、あとは創り上げるだけではないのかということです。

今回のイベントのテーマは「危機こそが最大Chance - Chance to Change -」。新型コロナウイルスによって、数多くの企業が苦境に陥っていると思います。逆に言うと、スタートアップにとってはみんな同じスタートラインに立ったので、これはチャンスなのです。

そんなコロナ禍において、どういうマインドセットで取り込まれているのか、ぜひ皆さんに伺いたいです。

渡邉氏:コロナ禍で、信用金庫の一番の強みだったface-to-faceでのサービスが打撃を受けました。もともとオンラインのテレビ電話を活用した新しいface-to-faceのあり方を言い続けていたのですが、なかなか理解してもらえませんでした。しかし、新型コロナウイルスの登場で状況が変わり、ピンチだったのですが、チャンスにもなりました。

佐藤氏:当社の場合、今まではLINEが精一杯という方がオンラインで相談をしてくれるようになりました。これは、劇的な進化ですね。私は患者さんのサポートをやっていますが、70歳くらいの女性がオンラインでつないでくれるなど、活性化しています。また、医療系の学会がオンラインで配信されたのですが、参加率がすごく高かったです。

ラジャ氏:当社は車を販売しているのですが、今年100周年を迎えました。ただ、次の100年は絶対違うと思っています。自分はインド出身で毎年3回は海外旅行に行ってたんですが、今年は行けなかった。ただ、行かなくてもYoutubeなどで体験できるようになっている。われわれもモノを売るより、体験を売る会社になっていかないといけないと考えています。

平岡氏:こうした危機をチャンスにできる企業もあれば、エンターテインメント業界や自動車・航空機産業は需要が減っていと思われるでしょう。

今、危機をチャンスに変えられている企業は、2008年のリーマンショックの時に大きな失敗をして、痛みを感じている。そうした企業はリーマンショックの時に危機をチャンスにできなかったけど、その時の学びや悔しさがあるから、景気がいい時から淡々と準備をしていたり、景気に流されて投資をしすぎなかったりと、過去の教訓を生かしている。