2010年にGoogleがGoogle Xプロジェクトの1つとして初めて公道テストを開始した時は本当に驚いた。自動運転カーが懸賞金レースで好成績を収め始めて「現実味を帯びてきた」と言っていた時に、いきなり目の前を走り始めたのだ。官民一体となった推進力がすごいと思った。今ふり返ると、シリコンバレーでの公道テストを通じて多くの人が実際に走る自動運転カーを目の当たりにしたことで、"車は究極のモバイルデバイス"という考え方に人々が耳を傾けるようになり、10年後の今Appleカーの噂が飛び交うことになっている。

  • 2010年代の前半〜中頃、Google本社の周辺では日常的に見かけるぐらいGoogleの自動運転カーの公道テストが活発に行われていた

    2010年代の前半〜中頃、Google本社の周辺では日常的に見かけるぐらいGoogleの自動運転カーの公道テストが活発に行われていた

でも、同じことを4年前にできたかというと、シリコンバレーであっても疑問符が付く。2010年にGoogleが公道テストを実現できた背景には、2008年に最高値を付けた原油価格の高騰とリーマンショックがあった。瞬く間にガソリン価格が倍以上に上昇して、人々の家計を直撃。ハイブリッドカーの販売が伸び、通勤に公共交通機関を使う人が増えた。ガソリンをじゃぶじゃぶ消費する車社会の限界を人々が感じ始めたタイミングだったから、自動運転カーの公道テストは受け入れられたのだ。同じ2010年にサンフランシスコでベータサービスを開始したUberがライドヘイリングでたちまち躍進できたのも、2010年というタイミングが大きかったと思う。その視点で今を見ると、COVID-19ワクチンの接種が世界的に始まった今年は2009〜2010年を思わせる。閉塞感が充満しているが、人々の変化を求める気持ちが高まっている。

例えば、昨年末にペンシルベニア州で、最大550ポンド、最大時速12マイルまでの配送ロボットを「歩行者」に分類することが認められた。

配送ロボットは近距離の配達を変える技術として注目されており、AmazonやFedexなどいくつもの企業が導入を目指している。既存の自動運転技術を応用でき、自動運転カーと比べて走行速度が遅いので、一見ハードルが低そうに思える。だが、人やペットが自由に歩き回る歩道で、周囲と自身の安全を確保しながら安定した走行を実現するのは想像以上に困難だ。人が配送ロボットに道をゆずるような気遣いが必要なら歩道者にとって不便だし、過去には大学での実地テストで車椅子の妨げになったことでテストが中止になったことも。NACTO(The National Association of City Transportation)は小型ロボットが歩道を走行できるようになったら配達のロボットで歩道があふれかえると危惧、認めるとしても騒音を含めて厳しく制限すべきとしている。

2017年にフロリダ、アイダホ、ウイスコンシン、バージニアなどで歩道の走行が認められたものの、サンフランシスコが2017年にPostmatesのテストを除いて配送ロボットの走行を禁じる判断を下し、それから歩道走行の法整備に関して反対派や慎重派の声が優勢になっていた。それが要石と呼ばれるペンシルベニア州で認められた。2017年との違いは、コロナ禍を経て、短時間配達のサービス、ローカルのレストランやショップからのデリバリーなどが日常的に使われるようになったこと。その一方で、エンジンをかけっぱなしで路上駐車し、渋滞の原因にもなる配達トラックの増加が問題化しており、今のソリューションとして配送ロボットの可能性が改めて注目されている。

  • 実地テストが盛んに行われて走行技術は向上しているが、法整備の壁に直面している配送ロボット

そして先週、サンフランシスコの北に位置するペタルマ市で、ガソリンスタンドの新設を禁じる条例が市議会を通過した。同市には現在16の給油所があり、今後は条例成立前に承認された1カ所を含む17カ所から増えることはない。既存の給油所が給油設備を増やすことも禁じており、充電ステーションの設置を促す。

カリフォルニア州では昨年、ギャビン・ニューサム知事が2035年までに同州内で販売される全ての新車を排ガスを出さないゼロエミッション車にすることを義務づける方針を発表した。ペタルマ市の条例はカリフォルニア州のクリーン政策に沿ったものに見えるが、そうした目標を目指した動きではない。きっかけはボトムアップだった。大手スーパーがガソリンスタンドを併設する計画を発表したのに対し、一部住民などが反対運動を展開。それから化石燃料インフラの議論が広がり、条例成立に至ったのだ。

電気自動車シフトに関して、ガソリン車が排出する温室効果ガスという視点だけではなく、人々が暮らす環境に給油所があることの土壌汚染や健康への影響が危ぶむ声が上がり始めている。これはまだ小さいなムーブメントに過ぎないが、公衆の場でタバコを吸う影響が深刻な問題と見なされるようになった2010年代のタバコ規制を彷彿させるものがあり、ペタルマ市の給油所新設禁止のような規制が他の地域に波及する可能性は高い。化石燃料に変わってクリーンエネルギーのインフラを求める気運が高まれば、電気自動車シフトが容易になるだけではなく、蓄電や送電、クリーン都市の変革が加速する。