東京大学、千葉工業大学(千葉工大)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、神戸大学の4者は3月11日、新生代第四紀の更新世チバニアン期~完新世ノースグリッピアン期にあたる約30万年前~約6000年前に堆積した、南太平洋ラウ海盆の深海堆積物の化学組成およびオスミウム(Os)同位体比の分析を実施した結果、海底での火成活動や陸上岩石の化学風化など、地球の岩石圏(固体地球)の変動を示す指標である海水Os同位体比が、第四紀の周期的な気候変動である氷期-間氷期サイクルに伴い明確に変動してきたことを世界で初めて見出したと発表した。
さらに、海洋での物質収支シミュレーションの結果、今回の研究により見出された海水Os同位体比の変動が、大陸氷床の後退時における氷河堆積物の急速な化学風化および大陸氷床の発達時における海底熱水活動の活発化を反映していることも明らかにしたことも合わせて発表された。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 システム創成学専攻の桑原佑典大学院生、東大大学院 工学系研究科 附属エネルギー・資源フロンティアセンターの安川和孝講師(千葉工大 次世代海洋資源研究センター 招聘研究員兼任)、千葉工大 次世代海洋資源研究センターの藤永公一郎上席研究員、JAMSTEC 海洋機能利用部門 海底資源センターの野崎達生グループリーダー代理(神戸大大学院 理学研究科 惑星学専攻 客員准教授/千葉工大 次世代海洋資源研究センター 招聘研究員兼任)、東大大学院 工学系研究科 附属エネルギー・資源フロンティアセンターの大田隼一郎助教(千葉工大 次世代海洋資源研究センター 招聘研究員兼任)、イタリア・パドヴァ大学の佐藤峰南研究員、JAMSTEC 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センターの木村純一上席研究員(シニア)、東大大学院 工学系研究科 システム創成学専攻の中村謙太郎准教授、東大 大気海洋研究所 附属高解像度環境解析研究センターの横山祐典教授(東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授/東大大学院 総合文化研究科 附属国際環境学教育機構 教授/JAMSTEC 海洋機能利用部門 生物地球化学センター 招聘主任研究員兼任)、東大大学院 工学系研究科 附属エネルギー・資源フロンティアセンター/システム創成学専攻の加藤泰浩教授(千葉工大 次世代海洋資源研究センター 所長/JAMSTEC 海洋機能利用部門 海底資源センター 招聘上席研究員兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
約6500万年前にメキシコ・ユカタン半島に直径10km余りと推定された巨大隕石が落下したことで、地球は大打撃を受けて環境が激変、その結果として恐竜をはじめとする多くの生物が絶滅した(地球史上5回目かつ最も新しい大量絶滅)。このとき、隕石によって地球にもたらされたイリジウムを多量に含んだ地層の「K-Pg境界」を境にして、それより以前(地層的には下側)は中生代、それ以降の現代までが新生代と地質時代は大きく区分されている。
新生代は3つの紀からなり、最も新しいものが約258万年前から現在まで続く第四紀だ。この第四紀は、北半球の大陸氷床が成長と後退を繰り返し、それに伴い温暖気候と寒冷気候が周期的に繰り返される「氷期-間氷期サイクル」という特徴がある。氷期とは酸素同位体比が高く寒冷気候にあたる時期のことで、それ以外の温暖な時期は間氷期だ。
氷期-間氷期サイクルは約258万年前から顕在化し、約80万年前までは4万年周期、80万年前から現在までの期間は10万年周期の変動が卓越するという特徴がある(現在の地球は温暖な間氷期の段階にある)。氷期-間氷期サイクルの原因として、地球の軌道要素(公転軌道の離心率、地軸の傾斜角、地軸の歳差運動)が周期的に変化することにより、北半球高緯度の夏の日射量が変動したとする「ミランコビッチ仮説」が提唱されている。
氷期-間氷期サイクルは、地質学的には非常に短い数万年オーダーという時間スケールで地球の平均気温が数℃も変化したという。この氷期-間氷期サイクルにおける地球システムの挙動を明らかにすることは、現在人類が直面している人為起源の気候変動のバックグラウンドを正確に把握するという観点からも、極めて重要と考えられている。
過去の気候変動に関するこれまでの研究により、数百万年オーダーの長期的な時間スケールにおいては、地球上の火成活動や岩石の化学風化(地表に露出した岩石が、水や大気と反応して変質していく作用のこと)といった固体地球にかかわるプロセスが全球的な気候を支配していると考えられるようになってきた。
その一方で、氷期-間氷期サイクルのような数万年程度の時間スケールでの気候変動に対し、固体地球がどのように関わっているのかについては十分に理解されていないという。
そこで共同研究チームは、氷期-間氷期サイクルにおける固体地球の挙動を明らかにするために、過去30万年間にわたる海水のオスミウム(Os)同位体比(187Os/188Os)の復元が試みられた。原子番号76の金属元素オスミウムには、中性子の個数の違いにより、自然に存在する同位体は安定同位体が4種類、放射性同位体が3種類の合計7種類ある。中性子111個の187Osと同じく112個の188Osはどちらも安定同位体で、この2種類のオスミウム同位体は地球科学分野で利用されている。
原子番号がひとつ若い75のレニウムのうち、放射性同位体の187Reは半減期が約416億年で、それが壊変して生成される娘核種が187Osだ。レニウムに富む大陸地殻を更生する岩石は、187Os/188Osが約1.4という高い値を取る。それに対し、マントルの岩石や地球外物質は約0.126と低い値を取ることが知られている。
また海水のOs同位体比は、高いOs同位体比を持ち主に陸上岩石の化学風化に支配される河川水フラックス(流量)と、低いOs同位体比を持ち海底の火成活動により支配される熱水フラックスの混合で決定される。深海堆積物に記録された過去の海水のOs同位体比を復元することで、陸上での風化作用と海底熱水活動の相対的な強度の変遷を知ることが可能だ。
Os同位体比の復元のため、共同研究チームは、国際深海掘削計画(ODP:Ocean Drilling Program)により掘削された南太平洋ラウ海盆の深海堆積物コア「ODP Site 834A」から試料を採取。JAMSTECのマルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて、Os同位体分析が実施された。なお、海水Os同位体比は全海洋でほぼ一様な値を示すため、今回の研究で対象としたコアのように大陸から遠く離れた遠洋域の堆積物は、全球を代表する情報を記録していると考えられている。
その結果、第四紀更新世チバニアン期から第四紀完新世ノースグリッピアン期にかけての約30万年前~約6000年前の海水Os同位体比記録を、高い時間解像度で連続的に復元することに成功したとした。そして、氷期-間氷期サイクルに伴い、海水Os同位体比が0.97~1.03の範囲で変動し、氷期には低い値を、間氷期には逆に高い値を取る明瞭な傾向があることが確認されたとする。
第四紀は、258万年前から1万1700年前までの更新世と、1万1700年前から現在までが完新世の2つに区分されている。さらに、更新世は「ジュラシアン」、「カラブリアン」、「チバニアン」、「後期更新世(正式名称未決定)」の4つの期に、完新世は「グリーンランディアン」、「ノースグリッピアン」、「メーガーラヤン」の3つの期に区分されている。更新世チバニアン期から完新世ノースグリッピアン期までは、チバニアン・後期更新世・グリーンランディアン・ノースグリッピアンと4期にまたがる地質年代である。
そして共同研究チームは、氷期-間氷期サイクルにおける海水Os同位体比の変動を引き起こした原因を検討するため、海洋におけるOsの同位体質量収支に着目した。今回の研究で得られた過去30万年間の海水Os同位体比データの変動を、数値シミュレーションにより再現することで、原因を探ったのである。
その結果、今回の研究で見出された海水Os同位体比の変動を再現するためには、以下の2点が必要であることが判明した。
- 温暖な間氷期には、高い同位体比を持つOsが海洋へ大量に供給されること
- 寒冷な氷期には、低い同位体比を持つOsが海洋へ大量に供給されること
そして、これらの現象は、以下に述べるような大陸氷床の体積変化に対する固体地球の急速な応答により説明できることが明らかとなった。
まず、間氷期の始まりには、氷期に発達していた大陸氷床が後退・消滅し、氷床が陸上の岩石を削り取ることで生じた氷河性の堆積物が地表に露出する。細かく粉砕された新鮮な鉱物から構成される氷河性の堆積物は非常に風化しやすいため、温暖な間氷期になると急速に化学風化を受け、氷河性砕屑物に由来する高い同位体比を持つOsが大量に海洋に流入する。その結果、海水Os同位体比が間氷期に高い値を取るようになったと考えられるという。
一方、大陸氷床が発達する寒冷な氷期には、海から蒸発した水分が雪氷として陸上に蓄積されるため、海水準は間氷期に比べて最大120mほど低下した。その結果、海底にかかる海水の荷重(静水圧)が減少し、海底火山や海嶺の地下におけるマグマの生成が活発化。その影響により海底での熱水活動が強化され、低い同位体比を持つマントル由来のOsが大量に海洋に供給されることで、氷期に海水Os同位体比の低下が引き起こされたと考えられるとした。
今回の研究により、氷期-間氷期サイクルにおける大陸氷床の発達と後退が、陸上岩石の化学風化と海底下のマグマによる熱水活動という2つの固体地球プロセスに影響を与えてきた証拠が初めて示された形だ。この成果は、近年の地球温暖化で注目を集めている氷床体積の変動が、大気・海洋・生物圏のみならず、固体地球圏のプロセスにも影響しうることを示した点で画期的といえるという。
これまで、数百万年以上の長期では「固体地球のプロセスが地球の気候を支配する」という因果関係が知られてたが、今回の研究により、氷期-間氷期サイクルという数万年スケールの変動においては「気候変動に対して固体地球が鋭敏に応答する」という逆の因果関係が存在することが示された。この成果は、氷床体積の減少を伴う人為起源の温暖化の進行が地球環境に与える影響について、より長期的な視野で予測・評価していくための新たな知見を提供するものといえるとしている。