キヤノン電子は2021年1月18日、超小型衛星「CE-SAT-IIB」が昨年末に撮影した、夜のアラスカ州ノースポールの画像を公開した。

従来、通常感度のカメラを搭載した光学衛星では、夜間の地上を撮影することは困難だった。そこで同社は、わずかな光源でも地上を撮影できる超高感度カメラを開発。月明かりに浮かぶ街の様子を撮影することに成功した。

今後、他のカメラで撮影した画像の公開も予定しているほか、衛星本体や衛星コンポーネント、衛星画像を販売する準備も進めているという。

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    キヤノン電子の超小型衛星CE-SAT-IIBが撮影した、夜のアラスカ州ノースポール。従来、通常感度のカメラを搭載した光学衛星では、夜間の地上の撮影は困難だったが、同社が開発したわずかな光源でも地上を撮影できる超高感度カメラにより、撮影に成功した (C) キヤノン電子

キヤノン電子のCE-SAT-IIB

キヤノン電子は2009年、宇宙事業へ参入。2012年には超小型衛星の開発・製造に着手した。

同社は「低価格・高性能・短納期」の超小型衛星の開発、販売という目標を掲げ、近年世界的に開発が活発な超小型衛星と、同社が得意とする光学技術を組み合わせ、世界最高レベルの解像度で撮影可能な超小型衛星を開発している。

また、同じく得意とする電子機器の開発技術や精密加工技術、小型化技術も活用し、内製化することで、必要な性能を維持しつつ大幅なコストダウン、短納期化を図っている。

2017年6月には、同社初の衛星「CE-SAT-I」がインドのロケットで打ち上げに成功。口径400mmの望遠鏡をもち、地上を0.9mという高分解能で撮影する技術実証に成功し、現在も地球を周回している。

2020年7月には2号機「CE-SAT-IB」の打ち上げに失敗するも、同年10月には3号機「CE-SAT-IIB」が打ち上げに成功した。

CE-SAT-IIBは外寸292mm×392mm×673mm、質量は35.5kg。高度約500kmの太陽同期軌道を周回している。

衛星には、超高感度カメラをはじめ、キヤノン製のミラーレスカメラ「EOS M100」や、コンパクトデジタルカメラ「PowerShot G9 X Mark II」も搭載している。

このうち超高感度カメラには口径200mmの望遠鏡が取り付けられており、地上を5.1m相当の分解能で撮影できる。またEOS M100は口径87mmの望遠鏡をもち、地上を5.0m相当の分解能で撮影できるという。

また、反射望遠鏡や超高感度カメラ、地磁気センサー、太陽センサー、恒星センサー、慣性基準装置、磁気トルカ、リアクション・ホイール、オンボード・コンピューターなど、衛星バス搭載品の多くを内製化したとしている。

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    キヤノン電子の超小型衛星CE-SAT-IIBの想像図 (C) キヤノン電子

CE-SAT-IIBが撮影した夜のアラスカ州ノースポール

CE-SAT-IIBの最大の特徴は、超高感度カメラを搭載している点である。

従来、通常感度のカメラを搭載した光学衛星では、夜の地上の様子を撮影することは困難だった。普通のカメラと同じように、暗い中では明るく光っているものしか写らないためである。そのため、これまで夜の地上を撮影する場合には、もっぱら電波で撮像する合成開口レーダー(SAR)衛星が使われていた。

そこでキヤノン電子は、月明かり程度のわずかな光源で間接的に照らされた地上も撮影できる、超高感度カメラを開発。CE-SAT-IIBに搭載した。

同社はCE-SAT-IIBの打ち上げ後、夜の地上の撮影に向け、望遠鏡のピント合わせや、夜間における地上点指向姿勢の確立など、所定の準備を実施。そして2020年12月30日15時ごろ(日本時間)、ちょうど満月の夜の中にあった米国アラスカ州ノースポールに超高感度カメラを向け、撮影試験に挑んだ結果、撮影に成功した。

公開された画像からは、自ら発光していない陸地や道路、河川といった地形を確認することができる。

同社では「夜間撮影においても地理空間情報が取得できるようになることで光学衛星の利用の幅が広がることが期待できます」とコメントしている。

また、同じくCE-SAT-IIBに搭載している、EOS M100を組み合せた口径87mm望遠鏡とPower Shot G9 X Mark IIによる撮影も成功しており、近日中に画像を公開する予定だという。

CE-SAT-IIBは現在、軌道上にて安定した運用を継続中で、今後、超望遠鏡カメラを積んだIシリーズの衛星とともに、望遠鏡のシリーズ化に向けた実証実験を続けるという。

さらに、衛星本体、衛星コンポーネント、衛星画像に関して、外部への販売販の準備も進めているとしている。

ちなみに2018年には、キヤノン電子はIHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行とともに、小さなロケットによる小型・超小型衛星の商業打ち上げ輸送サービスを提供する会社「スペースワン」を設立。現在、和歌山県串本町にロケット発射場「スペースポート紀伊」の建設が進んでおり、2021年度以降のロケットの打ち上げを目指している。

衛星の開発、製造からロケットによる打ち上げまでを一貫して行えるようになることで、低価格化や短納期化が一段と進み、宇宙ビジネスにおいて大きな存在感を発揮できる可能性がある。

参考文献

超小型人工衛星「CE-SAT-IIB(シーイー・サット・ツービー)」搭載の超高感度カメラより、夜間撮影に初めて成功 | キヤノン電子
宇宙関連事業 | キヤノン電子
超小型人工衛星 3 号機 CE-SAT-IIB 軌道投入 成功 | キヤノン電子
【ミラーレスカメラ】EOS M100 機種仕様
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