資生堂は、高周波や低周波を含む物理刺激(STエネルギー)を肌組織に作用させることで毛細血管の密度を高め、新たな皮膚を生みだす母細胞である「真皮幹細胞」の数を増やすことに成功したことを明らかにした。

同社はこれまでの研究から、真皮幹細胞がその能力を十分に発揮するためには、肌内部の毛細血管の状態が良好なことが重要であることを明らかにしてきたほか、真皮幹細胞は肌深部の毛細血管の周りで維持・安定化され存在しており、安定化のためには、毛細血管との相互作用を高める事と「真皮幹細胞安定化因子」の存在が必要であること、毛細血管を良好な状態に維持することが肌の弾力に重要であること、真皮幹細胞安定化因子は加齢とともに減少し、真皮幹細胞の数も減少してしまうことなど、皮膚に関する研究を行ってきた。

今回の研究はこれまでの知見を踏まえ、肌の良好な状態を保つためには、真皮幹細胞と毛細血管を良好な状態に導くアプローチが鍵になると考え、その手法の1つとして物理刺激によるアプローチが肌再生を促すかどうかを確かめるために行ったという。

STエネルギーが皮膚に及ぼす3つの効果

具体的な研究手法としては、培養した皮膚にSTエネルギーを作用させ、毛細血管および真皮幹細胞に及ぼす影響を検証するという手法を採用。その結果、以下3つの効果がみられたという。

1.毛細血管密度を高める効果

STエネルギーを加えた皮膚の毛細血管の太さと加えていない皮膚の毛細血管の太さを比較したところ、有意差が得られたという(5日間毎日適用した場合、実験5日目の有意水準は1%)

  • 資生堂が開発した、肌内部の血管を3次元で観察する技術を用いて撮影した毛細血管

    同社が開発した肌内部の血管を3次元で観察する技術を用いて撮影した毛細血管。太さを比べた結果、有意な差が見られたという(提供:資生堂)

2.真皮幹細胞の数を増やす効果

真皮幹細胞を緑色に染色して観察した結果、STエネルギーを与えた皮膚では、血管壁に結合している真皮幹細胞の数が増えたことが確認されたという。

  • 真皮幹細胞が増加した様子

    STエネルギーを与えた皮膚では緑に染色された真皮幹細胞が増加したことがわかったとしている (提供:資生堂)

3.真皮組織成分を産生する能力を高める効果

肌組織にSTエネルギーを作用させることにより、真皮を構成する成分であり、肌のハリや弾力につながるV型コラーゲン・弾力線維(フィブリリン1)の形成が促進されることもわかったとしている。

  • V型コラーゲン

    STエネルギーを与えた皮膚では、緑色に染色さえれたV型コラーゲンの産生量が増加したことが判明した (提供:資生堂)

  • 真皮幹細胞

    STエネルギーを与えた皮膚では、赤色に染色された弾力繊維(フィブリリン1)の形成が促成されたことが分かったとしている (提供:資生堂)

STエネルギーのヒトへの応用の検討

同社では研究で得られた知見をヒトへ応用する実験も実施。被験者1名の顔の皮膚にSTエネルギーを含む複数の物理刺激と物理刺激の浸透を高めるための基剤を1日に2回、適用した際の効果を検証したという。

その結果、1週間の計測にて頬部を中心に1.5~1.8㎜上向きに引きあがったことがわかったとしている。

  • 刺激前と刺激後の比較

    物理刺激を与える前と1週間物理刺激を与えた後の顔の比較 (提供:資生堂)

  • 皮膚が上向きに引き上がった

    計測の結果、1.5~1.8mmほど皮膚が上向きに引きあがったことが判明した (提供:資生堂)

この結果を踏まえ、さらに被験者の人数を30~50才代の中国人女性、各郡34名に増やして4週間の実験を実施。基剤のみを塗布する群とSTエネルギーを含む複数の物理刺激を与えた群に分けて検証を行った結果、弾力性(ハリ)、頬の引き締め(頬底部の長さの計測によって判定)、フェイスラインの引き締め(フェイスラインの長さの計測によって判定)の3つで有意差が見られたとしている(有意水準は5%)。

  • 基剤を単独で使用した場合と基剤+STエネルギーの使用の比較

    基剤を単独で使用した場合と基剤+STエネルギーの使用では、弾力性、頬の引き締め、フェイスラインの引き締めの3つで差が見られたという (提供:資生堂)

なお、今回の成果について同社では、現段階では実験用の器材を使用した効果であるとしているが、今後研究を進めていくことで、製品化を含むさまざまな応用を検討していきたいとしている。