東京医科大学、東邦大学、杏林大学、資生堂の4者は12月10日、これまでの研究において自家毛髪培養細胞を用いた細胞治療法に安全性と改善効果を認め、男女の壮年性脱毛症の新しい治療法になりうることを示したことから、見た目でわかる治療効果と安全性を示すため、頭頂部とその周辺のより広い範囲の薄毛部に自家毛髪培養細胞を複数回投与する新たな臨床研究を開始することを発表した。
同成果は、東京医科大皮膚科学分野の坪井良治名誉教授、同・原田和俊主任教授、東京医科大大学病院皮膚科の入澤亮吉院内講師、東邦大医療センター大橋病院皮膚科の新山史朗准教授、杏林大医学部皮膚科学教室の大山学教授、資生堂FSイノベーションセンター再生医療開発室の中沢陽介氏、同・岸本治郎氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、「JournalofAmericanAcademyofDermatology」にオンライン掲載された。
男女の壮年性脱毛症は、現在、発症頻度が高い脱毛症として知られる。重篤な疾患ではないものの、外見に重大な影響を及ぼすことから、QOL(Quality of Life=生活の質向上)の観点で治療法の開発が期待されている。
壮年性脱毛症の治療法として、日本国内では現在、いくつかの薬剤などが用いられている。しかし継続的な服用が必要であることや、女性の場合は薬剤の選択肢が限られていることなどの課題があるうえに、それらの効果は男女を問わず十分ではないという根本的な問題を抱えていた。
そうした中、東京医科大と東邦大、そして資生堂の3者は共同で、2016年から2019年にかけて、東京医科大学特定認定再生医療等委員会にて承認された計画に基づき、「毛球部毛根鞘細胞加工物(S-DSC)」を用いた自家培養細胞の頭皮薄毛部への注入施術の安全性と有効性を検討する臨床研究を実施。その結果、薄毛部の小さな面積に一度だけ注射した際の、有効な細胞濃度を決定し、安全性が確認されたという。安全性と改善効果が認められ、男女の壮年性脱毛症の新しい治療法になりうることが示されたのである。
そこで、今後さらなる臨床における治療法の確立を目指すため、頭頂部とその周辺のより広い範囲の薄毛部に自家毛髪培養細胞を複数回注入し、見た目でわかる治療効果と安全性を示す必要があることから、今回、杏林大の大山教授の研究チームを加え、4者共同で新たな臨床研究が始められることとなった。臨床研究の実施医療機関は、東京医科大病院、東邦大医療センター大橋病院、杏林大学医学部付属病院の3施設。被験者は、男女合計40名程度で、注入後1.5年、安全性フォローに2年をかける計画となっている。
臨床研究では、同意を得た被験者の後頭部から少量の皮膚組織(直径数mm)が採取され、それを細胞加工施設(資生堂細胞培養加工センター)に輸送。そして、毛包毛球部毛根鞘組織が単離されたうえで培養され、S-DSCが準備される。被験者の頭頂部とその周辺の広範囲の脱毛部位にS-DSCを注入し、一定期間後、もう一度同一部位に注入するという流れだ。
共同研究チームは、今回の臨床研究により再生医療による新しい薄毛治療法の実現を目指していくとしている。