東京大学(東大)は11月20日、全体の厚さが12μmの4層構造のナノメッシュを用いた指先に直接貼り付けるタイプの圧力センサを開発。皮膚感覚に影響を及ぼすことなく、10mg以下の重さを検知できることを確認したと発表した。

  • スキン圧力センサ

    指の先に貼り付けたスキン圧力センサを用いた接触圧の計測例 (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

同成果は、同大大学院工学系研究科電気系工学専攻の李成薫 講師、同 横田知之 准教授、同 研究科長の染谷隆夫 教授らを中心とした研究チームと、ミュンヘン工科大学のSae Franklin博士、David W.Franklin教授、Gordon Cheng教授らの共同研究グループによるもの。詳細は11月20日付の科学誌「Science」(オンライン版)に掲載された。

今回の研究は染谷教授らの研究チームが2017年に開発した生体に対して親和性の高い金を用いたナノメッシュ構造の繊維状ファイバー(ナノファイバー)をベースとして、指先に貼り付けても皮膚感覚に影響のない圧力センサを開発しようというもの。指先や手にかかる圧力を図るためのセンサはグローブ型などが存在しているが、一流の技術者や医師の手技では、指先の皮膚感覚が変化してしまい、本来の感覚に影響を与えてしまうという課題があった。

指先の感覚は、2μmのフィルムを通しても、違和感を生じるほど鋭敏だが、これはフィルムが平面でつながっており、圧力が四方に分散されることに対する違和感を人間が感じるため。今回の研究で開発されたナノメッシュセンサは電極の金ナノメッシュの間に絶縁膜層としてポリウレタンのナノメッシュを、そして最外部に表面保護膜としてポリウレタンのナノメッシュを配置する4層構造ことで、力をかけられた方向にそのまま流すことを可能とし、皮膚感覚への影響を軽減することに成功したという。

  • スキン圧力センサ
  • スキン圧力センサ
  • 皮膚上におけるフィルムとナノメッシュの圧力による変化のイメージと今回開発されたスキン圧力センサの構造 (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

また、圧力の印加で電極間の容量が変化することで測定する容量式圧力センサ方式を採用し、その感度は10mg以下の重さを検出可能な0.14kPa-1を実現。0.16gの非常に軽いスポンジに対する把持力も正確に把握することに成功したという。

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    0.16gという非常に軽いスポンジを把持した際の圧力を計測した際の様子 (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

さらに、指先をこすると壊れてしまうため、表面保護膜のポリウレタンのナノファイバーのさらにその表面に水溶性高分子のポリビニルアルコール(PVA)をナノファイバーとして含有させることで、ポリウレタンのナノメッシュ間を補強し、こすれても壊れなくすることに成功。これにより、1000回ほど19.6kPaの圧力を印加した後の感度変化は0.2%以下、300回ほど100kPaの力で表面をこすった後の感度変化も5%以下ながら、18名の被験者に対して、感覚への評価試験を実施した結果、モノを持ち上げたり、保持したりする際の把持力に変化は生じず、皮膚感覚は貼り付けない状態とほぼ同じであることを確認したという。

  • スキン圧力センサ
  • スキン圧力センサ
  • 1000回加圧後の容量変化と、表面保護膜の導入による摩擦耐久性の向上 (資料提供:東大/染谷隆夫 教授)

今回の成果について、染谷教授らは、指先に神経を集中して行うような職人作業のデジタル化や、腕や指の行動を解析、計測することでスポーツや医療、介護、神経工学などの分野での応用などが期待できるとしており、今後はさらなる実用化に向け、センサの多点化、圧力センサ以外のセンサとの複合化、貼り付け方法の簡素化などを進めて行きたいとしている。