京都大学(京大)は10月29日、光子の量子もつれ状態を、従来に比べて高い効率で検証する方法の実証に、構築した6つの光子間量子ゲートを含む光量子回路を用いて成功したと発表した。
同成果は、京大工学研究科の竹内繁樹教授、同・岡本亮准教授、同・清原孝行博士課程学生(研究当時)、同・山城直毅修士課程学生(研究当時)、京大工学部の荒木裕貴学生(研究当時)、広島大学のHolger F. Hofmann教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、国際学術誌「Optica」に掲載された。
電子や光子などの量子は、通常の物体とは異なった振る舞いをする。その量子の個々の振る舞いや相関、つまり「量子もつれ」を制御することで、飛躍的な計算能力を実現する量子コンピュータや、盗聴不可能な量子暗号、さらに従来の計測技術の限界を超える量子センシングなど、「量子技術」の研究が精力的に進められている。
量子もつれとは、ふたつの異なるシステム間で相関した状態がふたつ以上あり、それらが(量子において複数の状態が同時に成立する)量子重ね合わせ状態にあることをいう。
量子技術において光子は、長距離伝送が可能で、また室温でも量子状態が保存されるため、有力な担体だ。特に、多数の光子が、さまざまな経路・周波数(モードと呼ばれる)に存在する量子もつれ状態は、光量子暗号の長距離化や、光量子センシング、また光量子コンピューティングのリソースとして注目されている。
しかし、その状態が量子もつれ状態であるかどうかの検証には、光子やモード数の増大とともに、そのための測定回数が指数関数的に増大してしまうという課題があった。そこで国際共同研究チームは今回、量子もつれ状態の検証に必要な測定回数を著しく減少させた、より直接的な検証方法を実験的に実証することにしたという。
量子もつれ状態の検証方法としては、これまでは「量子状態を完全に同定する方法」(量子トモグラフィー)が行われてきた。それに替わる手法として今回開発されたのが、一般にふたつの光子間のもつれ合いの検証に用いられている「ベルの測定方法」を一般化した光量子回路(量子フーリエ変換回路)を用いる手法だ。
ベルの測定方法とは、ふたつの光子が偏光に関する量子もつれ状態にあるかを検証する場合、「偏光が、垂直・水平方向のいずれであるか」という測定のほかに、それらふたつの状態の重ね合わさった状態(この例では、斜め45度方向の直線偏光)についての測定も行う方法だ。そのいずれにおいても、ふたつの光子の測定結果に顕著な相関があるかどうかの確認が行われる。
そしてフーリエ変換とは、xに関する関数f(X)が入力された際に、xに比例する位相項exp(ixa)を掛け合わせながら、足し合わせる(積分する)ことで、aに関する関数F(a)へと変換する操作のことだ。関数の周期性を解析する手法などで広く利用されている。量子フーリエ変換回路は、入力された量子状態(量子重ね合わせ状態)に対して、同様の操作を行う回路のことだ。
なお実証実験にあたっては、量子フーリエ変換回路の動作を実現するため、多数の入り組んだ光干渉計を光の波長の100分の1程度で安定化する必要があった。特殊な干渉計を利用することで、安定な光量子回路としての動作が実現された。
今回の成果により、多数の光子の量子もつれ状態を、極めて効率的に(指数関数的に少ない回数の測定で)評価でき得ることが実証された。このような量子もつれ状態を利用した、量子暗号通信の長距離化や光量子シミュレーションなどが提唱されており、将来的には、高度なセキュリティを備えた安全・安心な暮らしや、新規化学物質の開発などへの応用も期待されるとしている。
今後は、今回実現した方法をより大規模な光子の量子もつれ状態への適用を目指すとともに、今回実現した光量子回路のオンチップ化にも取り組む予定としている。