大阪市立大学は10月16日、素粒子標準模型におけるヒッグス場を高次元ゲージ場の一部とみなす「5次元ゲージ・ヒッグス統一理論」を「大統一理論」に拡張した理論を構築し、「電弱対称性の破れ」およびヒッグス粒子の質量を再現できただけでなく、「クォーク・レプトンの質量階層性」も不自然なパラメータの微調整をせずに再現することに成功したと発表した。

同成果は、同大学大学院理学研究科の丸信人 准教授、同・後期博士課程1年生の矢田貝祥貴 大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、「The European Physical Journal C」に掲載された。

素粒子は現在までのところ、クォーク・レプトンの物質粒子と、クォークを結びつける「強い力」・原子核の崩壊などに関わる「弱い力」・電磁気力の3種類の力(相互作用)を媒介する「ゲージ粒子」、そして素粒子に質量を与える(光子を除く)「ヒッグス粒子」が知られている。これらは標準模型で既述されており、実験データをよく説明しているとされる。

しかし、標準模型では説明しきれない未解決の問題もある。電弱対称性の破れの起源、ヒッグス粒子の起源、クォーク・レプトンの質量階層性の問題などだ。電弱対称性の破れとは、電磁気力と弱い力を統一する電弱理論において、対称性が自発的に破れている現象のことをいう。クォーク・レプトンの質量階層性の問題とは、標準模型では予言できないクォークとレプトンの質量間にある6桁にも及ぶ階層性のことである。クォークとは陽子や中性子を構成する6種類の素粒子のことで、レプトンには電子やニュートリノなどの6種類の軽い素粒子のことだ。

電弱対称性の破れの起源とヒッグス粒子の起源に関する問題点は、標準模型におけるヒッグス粒子のポテンシャルに決定できないパラメータがあることが原因だ。またクォーク・レプトンの質量階層性の問題については、標準模型では「湯川結合定数」(日本人ノーベル賞受賞者の湯川秀樹博士が導入した素粒子物理学の「湯川相互作用」に関わる定数)が決められないことが原因となっている。これらの問題を解決するためには、標準模型を超える物理への拡張が不可欠であり、世界中の研究者によりさまざまな理論が提唱されている。

丸准教授らの今回の研究では、その拡張のひとつである「5次元SU(6)ゲージ・ヒッグス大統一理論」を構築し、前述した3点の問題を一挙に解決したという。大統一理論とは、完成すれば電弱理論に強い力を加えた3種類の力を統一する理論のことだ。今回の研究も含め、世界中で研究が進んできているが、まだ完全な完成には至っていない。ちなみにその先の、重力も含めた超大統一理論に関しては、重力に関してはわかっていない部分が多いこともあり、完成は当分先のことといわれている。

また今回の「5次元SU(6)ゲージ・ヒッグス大統一理論」では、ヒッグス粒子が5次元ゲージ粒子の余剰次元成分に同一視され、ヒッグス粒子と力を媒介するゲージ粒子をも統一するという「野心的な理論」だという。

今回の研究では、大統一理論完成へ向けた第1歩として、クォーク・レプトンのみならず、標準模型に含まれない物質粒子を追加でうまく選ぶことにより、標準模型で生じる電弱対称性の破れが実現され、ヒッグス粒子の質量を再現するシンプルな模型を構築することに成功したという。

また5番目の空間の境界に局在するゲージ粒子の運動項を導入することで、再現することが困難なトップクォークの質量も含めたクォーク・レプトンの質量階層性を、パラメータの不自然な微調整をせずに再現することにも成功したとした。

「5次元SU(6)ゲージ・ヒッグス大統一理論」のポイントは、ヒッグス粒子のポテンシャルおよび湯川結合はゲージ対称性の要請により、ヒッグスポテンシャル中のパラメータや湯川結合定数に対して制限が課され、勝手な値を取れなくなり、決まらないパラエータの数が非常に少なくなることだという。この著しい性質により予言能力が高まり、今回の成果につながったとしている。

なお丸准教授は、今回の研究で構築された「5次元SU(6)ゲージ・ヒッグス大統一理論」は、現実的大統一理論へ向けての第1歩がクリアできた段階だという。次の研究課題として、ゲージ結合定数の統一と陽子崩壊の解析というふたつの研究が必要不可欠だとする。

まず、ゲージ結合定数の統一において、強い力・弱い力・電磁気力が統一するエネルギースケールを評価を実施。そして、その情報を用いて陽子崩壊の研究から、大統一理論に特有の陽子の主崩壊モードを特定したのちに陽子の寿命を計算し、将来計画されているハイパーカミオカンデ実験での検証可能性を明らかにするとしている。

  • 大統一理論

    アップクォーク(6種類のクォークのうちのひとつ)と、ウィークボソン(弱い力を媒介する素粒子)の質量比の依存性を表したグラフ (出所:大阪市大プレスリリースPDF)