東北大学大学院理学研究科は5月29日、標準理論のU(1)Yゲージボソンと隠れたU(1)ゲージボソンが大きな運動項の混合(χ)を持つときに、標準理論の3つの力が、高いエネルギースケールで統一することを高次の量子補正を含めて示したと発表した。

同成果は、同研究科 横崎統三助教、高橋史宜准教授、大学院生の大道竜次氏らの研究グループによるもので、5月10日付の科学誌「Physics Letters B」に掲載された。

標準理論とは、素粒子物理学における非常に完成度の高い理論で、その正しさは多くの実験によって高い精度で確認されている。一方で、暗黒物質の正体、力の大統一、強いCP問題など多くの重要な未解決問題が残されており、標準理論を超える新しい物理が求められている。

力の大統一とは、標準理論で扱う3つの力が高いエネルギースケールで一致することを言い、標準理論よりもより根源的な理論、大統一理論が高いエネルギースケールに存在することを意味する。大統一理論の存在は1970年代に提唱されているが、実際に標準理論で計算してみると、標準理論の3つの力が一致することはない。

近年、標準理論の拡張として、隠れたU(1)ゲージボソンが標準理論のU(1)Yゲージボソンと運動項の混合を持つときに、力の大統一が起こることが示唆されていた。しかし、中間エネルギースケールに物質場が存在するときに力の大統一が起こるかはわかっていなかった。また、高次の量子補正も計算に含まれていなかった。

今回、同研究グループは、中間エネルギースケールに物質場が存在するときにも、その数によらず力の大統一が起こることを示した。また、力の大統一は隠れたU(1)ゲージ対称性の結合定数の大きさによらず実現することも示した。この力の大統一が起こる様子は、高次の量子補正を含めて計算されており、このときに、中間エネルギースケールに存在する物質場は安定になり、暗黒物質になることがわかった。この暗黒物質は微細な電荷を持ち、将来の暗黒物質検出実験での検出が期待されるという。

今後は、隠れたU(1)ゲージ対称性とU(1)Yの運動項の起源を解明していくとともに、微細電荷を持った暗黒物質が宇宙の進化にどう影響するかを明らかにしていく必要があると同研究グループは説明している。

今回、研究グループは、中間エネルギースケールに物質場が存在しても力の大統一が起こることを示した。黒実線、青破線、赤点線は順に物質場の数を増やしていった様子 (出所:東北大学大学院理学研究科 Webサイト)