はじめに

最新のモーター制御システムでは、フィードバックの精度と信号の完全性を確保して、速度やトルクなどのシステム応答を正しく駆動するとともに、モーターのダイナミックレンジ内で安定性を維持する必要があります(図1)。

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    図1. ACブラシレス3相モーター

モーターの情報を取り込む際には、モーター制御測定の方法としては、ローサイド、ハイサイド、インライン(直巻)の3つの電流検出手法があります(図2)。

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    図2. ローサイド、ハイサイド、インラインの各回路オプションによるモーターの速度とトルクの検出

この記事では、3つのモーター制御手法を比較し、堅牢な電流検出回路を実現するための適切な電子回路はどれなのか、探ります。

ローサイドモーター電流センサー

低コストのローサイド電流検出アプリケーションでは、ゲート駆動FETスタックの最下層でアンプと検出抵抗(RL)を使用します。ローサイド検出システムでは、アンプの動作をグランド付近で維持し、各相の電流データを順次取り込みます。

長所として、検出抵抗(RL)とアンプがグランド付近にあるため、回路の設計が簡素化されます。さらに、検出抵抗の上端での非反転アンプ入力によって、高い非反転端子入力インピーダンスに伴い干渉が抑制されます。

短所としては、グランドとモーターの相間の電流検出抵抗によって、望ましくない動的な電圧降下が加わり、グランド経路に混乱が生じることが挙げられます。この抵抗(RL)の追加に伴い、オフセット電圧が生じて電磁干渉(EMI)ノイズの問題が引き起こされる可能性があります。

負荷がグランドに短絡した場合、RLの抵抗のために負荷におけるフォルト検出は不可能となります。検出抵抗とアンプの組み合わせによって、モーターのフライバック電流とリターン電流を取り込みます。各相に検出抵抗とアンプが使用されていない場合、巻線電流を計算する唯一の方法は、マイコンのアルゴリズムを使用する方法のみとなります。

ハイサイドモーター電流センサー

ハイサイド抵抗をFETドライバの正電源に直接接続すれば、システム全体に対する抵抗のAC電圧の動的な影響を最小限に抑えることができます。この構成は侵入性が比較的低いため、EMI特性も最小限に抑えられます。さらに、コモンモード除去比(CMRR)の高い差動アンプによって、パルス幅変調器(PWM)のスイッチングノイズはフィルタリングされます。

ハイサイド手法では、回路でFETネットワークの電源電圧における大きなコモンモード信号に対処する必要があります。この要件があるため、高電圧が生じた場合でも処理することができる堅牢なアンプが必要です。さらに、回路におけるRHの位置から、フライバック電流と巻線電流の測定は不可能となります。

インラインモーター電流センサー

インライン(直巻)型は、実際の電流の位相情報を提供するため、有効な手法です。直巻の構成では、システムプロセッサが3相モーターの各相における電流を常に把握しているため、より効率的なモーター動作を実現することができます(図3)。

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    図3. インライン電流検出によるモーター制御

図3では、3つの相がすべて同時にMCUによってサンプリングされるため、各相の励起間で位相関係が維持されます。

理想的なインライン測定用のアンプは、パルス幅変調(PWM)のコモンモード過渡を除去して各相の差動信号を増幅します。セトリング時間が短く、帯域幅が広いアンプは、コモンモード過渡電流を除去することができます。強力なPWM除去によって、最速のセトリング時間と高い精度が実現され、ユーザーはPWMデューティサイクルを可能な限り0%に近づけ最小化することができます。

堅牢なモーター制御システムのソリューションを構築するには、コモンモード過渡電流を除去できるインライン、高速セトリング時間、広帯域幅のアンプを使用することといえるでしょう。

300kHzの「MAX40056」は、コモンモード除去比60dB(50V、±500V/μs)の高度なAC PWMエッジ除去を内蔵した双方向電流検出アンプです(図4)。

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    図4. 特許取得済みPWM除去回路を内蔵した電流検出アンプ(CSA)

図4では、10V/V、20V/V、50V/Vの複数のゲイン・オプションがあります。内部リファレンスは1%の双方向オフセットを備えています。

このデバイスは、500V/μs以上のPWMエッジから500ns以内に回復が可能です。入力コモンモード電圧範囲は-0.1V~+65Vで、保護耐圧は-5V~+70Vです。MAX40056と他社製品の比較データをみると、PWMコモンモード耐性の差が明らかです(図5)。

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    図5. 50V PWMサイクルのPWMエッジ除去

図5では、MAX40056 CSAのアナログ出力は小さな隆起を示した後、500ns以内に回復していますが、他社製デバイスは回復するまでに約2μsを要しています。このCSAの特許取得済みPWM除去入力は、過渡電流を抑制し、クリーンな差動信号測定を実現します。

まとめ

本稿では、ローサイド、ハイサイド、およびインライン電流検出による3つのモーター制御手法を比較しました。この中で一番推奨されるのは、インライン電流検出手法で、この手法は、ACモーターの3相の位相関係を維持する、堅牢な電流検出回路であることが分かりました。

著者プロフィール

Maurizio Gavardoni
Maxim Integrated
テクニカルスタッフ上級主要メンバー

長年にわたって製品の定義や業務管理に携わり、シグナルチェーン、センサー、タイミングの分野でいくつかの優れた製品を開発し、市場に送り出しています。
Maximに入社する前は、Texas InstrumentsとMicrochipで同様の部署に勤務していました。
イタリアのミラノ大学で電気工学修士号 (MSEE) を取得しています。

Bonnie Baker
Maxim Integrated
主席ライター

アナログ、ミクスドシグナル、シグナルチェーンの経験豊富な専門家であり、電子技術者です。業界誌に何百本もの技術記事を執筆しています。また、「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著者であり、ほかに数冊の共著書があります。過去には、モデリングや戦略的マーケティングを担当し、ICアーキテクトや設計技術者も務めています。
アリゾナ大学(アリゾナ州ツーソン)で電気工学修士号を取得し、ノーザン・アリゾナ大学(アリゾナ州フラッグスタッフ)で音楽教育の学士号を取得しています。また、彼女は、ADC、DAC、オペアンプ、計測アンプ、SPICEおよびIBISモデリングなど、さまざまな工学トピックに関するワークショップにおいて、企画、執筆やプレゼンテーションを担当しています。