衛星通信大手のスカパーJSATは2020年9月24日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との間で、「技術試験衛星9号機(ETS-9)」に関する協定書を締結したと発表した。

これによりスカパーJSATは、ETS-9の実証後期間の定常運用業務を担うほか、同衛星に相乗りペイロードとして光学望遠鏡を搭載し、スペース・デブリ(宇宙ごみ)を観測することを目指すとしている。

  • スカパーJSAT

    技術試験衛星9号機(ETS-9)の想像図 (C) JAXA

スカパーJSATがETS-9の運用とデブリ観測を実施

技術試験衛星9号機(ETS-9)は、JAXAと三菱電機などが開発している技術試験衛星で、2022年度に静止軌道への打ち上げが予定されている。近年、静止通信衛星の分野ではさまざまな技術革新が続いており、そうした最先端技術を実証し、2020年代に国際競争力ある衛星システムを実現することを目的としている。

JAXAは2019年7月、「技術試験衛星9号機バスの定常運用および相乗りペイロードの追加搭載等」の契約先として、アジア最大の衛星通信事業と、国内唯一の有料多チャンネル放送サービス「スカパー!」を提供するスカパーJSATを選定。そして今回、ETS-9の実証後期間の定常運用業務(地上システムと衛星バスの運用・維持管理)の委託と、相乗りペイロードによる衛星バスの利用に関して、同社とJAXAが協定書を締結した。

同社はこれまでにも、JAXAが保有する「超高速インターネット衛星(WINDS)」の運用(2012年6月~2019年3月)を手掛けたほか、2020年度打ち上げ予定の「データ中継衛星システムおよび光データ中継システム(JDRS)」の衛星バス運用も受託。これらを通じて、JAXAの衛星の運用経験を積んできた。

同社は、今回のETS-9の実証後期間の定常運用業務の受託について「これまでの実績に加え、スカパーJSATが有する豊富な地上システムの構築ノウハウ、累積30機以上の静止衛星運用経験や技術が評価された結果と受け止めております」とコメントしている。

相乗りペイロードには、スペース・デブリを観測するための光学望遠鏡を搭載する。同社では「近年需要の高まっているスペース・デブリ対策を目的としたもので、静止軌道上のデブリを撮像し、宇宙環境を把握することで、デブリと衛星の衝突を回避し、宇宙の安全に寄与することを目指す」としている。

  • スカパーJSAT

    技術試験衛星9号機(ETS-9)の想像図 (C) JAXA

技術試験衛星9号機(ETS-9)

近年、航空機や船舶、離島、災害地といった地上通信ネットワークが利用できない場所におけるブロードバンド通信の需要が高まり、また、身のまわりのあらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)といった新しいテクノロジーの普及拡大を背景に、商業通信衛星市場では競争が激化している。

また、通信に必要不可欠な電波の周波数資源が逼迫していることから、従来よりも周波数利用効率の高いシステムや、光を使った大容量通信の実現も求められている。

そこでETS-9は、市場ニーズを実現するさまざまな最先端の通信技術と、それらの通信機器を搭載・運用できる衛星バス技術を実証し、日本の宇宙産業の競争力強化を目指している。

通信技術の開発は情報通信研究機構(NICT)が担当し、ニーズに合わせて通信容量や利用地域を柔軟に変更可能なハイスループット(衛星(HTS)通信システム技術や、 静止軌道と地上間で上り下り10Gbps級の通信速度をもつ光衛星通信システムの技術を実証する。

また、ETS-9では、大推力のホール・スラスター(電気推進エンジンのひとつ)を使って、静止軌道への投入や姿勢・軌道制御を行う全電化衛星バスを採用。推進剤の搭載量を従来の化学推進から減らし、その分を通信機器などに割り当てられるようにすることで、より多くの通信機器の搭載や、打ち上げコストの低減を図る。

さらに、通信機器の搭載数が増加すると消費電力も増大。前述のような新しい通信システムも多くの消費電力を必要とし、それにともない機器から発生する大量の熱をどう排出するかも問題となる。そこでETS-9では、2020年代に求められると推定される、発生電力25kW以上の大電力化を図るとともに、太陽電池パドルの軽量化、高効率バッテリーや大容量電力制御器などによる電源系の軽量化・高効率化、ループヒートパイプによる熱制御系の高排熱化などの技術実証を行う。

くわえて、衛星運用にかかるコストを削減するため、静止GPS受信機を用いた自律的な軌道制御の技術実証も行う。

ETS-9の打ち上げは2022年度の予定で、ロケットにはH3ロケットが使われる予定となっている。打ち上げ後は、前述した大推力ホール・スラスターを使って高度約3万5800kmの静止軌道に投入。設計寿命は16年が予定されている。

  • スカパーJSAT

    技術試験衛星9号機(ETS-9)に搭載されるホール・スラスターの想像図 (C) JAXA

参考文献

技術試験衛星9号機に関する協定書の締結について | スカパーJSAT | スカパーJSATグループ
技術試験衛星9号機 | 人工衛星プロジェクト | JAXA 第一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター
ETS-9衛星通信プロジェクト|研究プロジェクト|宇宙通信研究室|情報通信研究機構ワイヤレスネットワーク総合研究センター