米宇宙企業スペースXは2020年8月5日、巨大宇宙船「スターシップ」の試作機「SN5」の初飛行に成功した。

スターシップは同社が月や火星への移住を目指して開発している宇宙船で、今後も試験を重ね、早ければ2021年にも無人での宇宙飛行を、そして2023年に有人月飛行の実施を目指す。

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    “ホップ”するような飛行試験を行うスターシップの試作機SN5 (C) SpaceX

スターシップSN5とは?

スターシップ(Starship)は、月や火星などへ人類を移住させることを目指し、スペースXが開発している巨大宇宙船である。

スターシップの開発や試験は、テキサス州の南端、メキシコとの国境沿いのメキシコ湾に面した、ボカチカと呼ばれる場所にある同社の施設で行われている。

同社はまず、まず「スターホッパー(Starhopper)」と呼ばれる、基礎的な技術を実証するための試作機を開発。昨年7月から8月にかけて、ボカチカにおいて“ホップ”するように飛行する試験を行った。

そして、それに続く試作機として、実機のスターシップとほぼ同じ形状、寸法をした「スターシップMk1」を開発。もともとはこのMk1を使い、高度20kmまで飛行する試験を行う予定だったが、11月にタンクに圧力をかける試験中に破裂し、大きく破壊され頓挫した。また、Mk1と並行して、より実機に近いMk2、Mk3という試作機の製造も進んでいたが、計画の見直しにより中断された。

その後は、SN(Serial Number)と名付けられた新しい試作機シリーズの開発に移ったが、SN1は2020年2月、極低温の推進剤を模した液体窒素を注入しての耐圧試験中に破裂。タンクのみの試作機SN2による試験は成功したものの、続いて製造されたSN3がふたたび耐圧試験中に破裂。改良を加えて造られたSN4も、一度は耐圧試験に成功したものの、5月に爆発事故を起こすなど、三歩進んで二歩下がるような開発状況だった。

しかし7月には、ふたたびタンクのみの試験機であるSN7による耐圧試験に成功。そして今回、SN5によって、SNシリーズとしては初めての飛行試験に成功した。飛行時間は約45秒、到達高度は約150mで、また正確な距離は不明なものの、水平方向への横移動も行っている。さらに着陸脚の出し入れも行われた。

SN5は、実機のスターシップから先端のノーズ・コーンを取り外した外見をしており、エンジンも1基のみしか搭載していない。今回のようなホップする飛行試験は、昨年スターホッパーでも行っているが、SN5のタンクなどの構造は実機のスターシップとほぼ同じで、またエンジンも性能が向上しているなど、より実際のスターシップの飛行に近いものであった。

スペースXのイーロン・マスクCEOは試験後、Twitterを通じて「打ち上げまでのプロセスをスムーズにするため、今後もホップする飛行試験を数回行い、その後機体にフラップを装着して、高高度へ飛行する試験を行う」とコメントしている。

マスク氏はかねてより、ホップする飛行のあとは高度20kmへの飛行を行い、さらにその後、宇宙への飛行や、大気圏再突入などの試験に進むと語っていた。ただ、具体的なスケジュールについては明らかになっていない。

またマスク氏は、「SN5にはいくつかの修理が必要であり、次の試験機である『SN6』の飛行準備が先に整うことになるだろう」ともツイートしている。

そして「火星への飛行は現実味を帯びてきている。開発は加速している」とも付け加えた。

もっとも、マスク氏が2019年9月にスターシップの現行デザインを公開した際に語られた開発スケジュールからは、すでに大きく遅れ始めている。また、今後の高高度への飛行や宇宙飛行、大気圏再突入などは、これまでの試験よりさらにハードルが高く、順調に進むかどうかは未知数である。

今回の飛行試験の成功はひとつの一里塚を超えたにすぎず、道のりはまだ長い。

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    SN5の試験飛行の様子 (C) SpaceX

NASAも期待を寄せるスターシップ

スターシップは直径9m、全長50mという巨体を特徴とし、同じく巨大なロケット「スーパー・ヘヴィ」で打ち上げることで、地球低軌道に100t以上の打ち上げ能力をもつ。

また、スターシップと同型のタンカーを使って、地球周回軌道上で推進剤の補給を受けることで、月や火星に同じく100t以上、あるいは100人の人間を送り込むこともできるとされる。

機体の構造には特殊なステンレスを使い、高い耐久性や耐熱性ももたせている。さらにロケット・エンジンの「ラプター」は、経済性や入手性に優れたメタンと液体酸素を推進剤とし、エンジン構造も、高い効率やメンテナンス性を発揮できる仕組みを採用している。その結果、機体を繰り返し何度も再使用できるようになっており、打ち上げコストは現在の大型ロケットの約100分の1、およそ200万ドルになるという。

同社では月や火星への移住のほか、さまざまな人工衛星の打ち上げや、宇宙旅行、さらに大陸間、都市間を結ぶ極超音速旅客機としても活用することを見込んでいる。

同社では、早ければ2021年にも、無人での地球周回軌道への打ち上げを計画している。さらに2023年ごろには、実業家でZOZO創業者である前澤友作氏と、複数人のアーティストを乗せ、月への飛行も計画されている。

前澤友作氏は今回のSN5の初飛行成功に際して、「月までの渡航の際に搭乗予定のStarshipロケットが、150mの離着陸テストに成功。おめでとうございます。ちなみに僕が計画している月渡航プロジェクトは2023年頃実施予定。地球から約38万km離れた月まで行って帰ってくる約6日間の旅となります」とコメントしている。

さらに、米国航空宇宙局(NASA)もスターシップに期待を寄せている。現在NASAが進めている有人月探査計画「アルテミス」では、有人月着陸船の開発を民間が担うことになっており、NASAは2020年5月、その開発業者の候補として、ブルー・オリジンとダイネティクスとともに、スペースXのスターシップを選定している。

アルテミス計画用のスターシップは、月周回軌道と月面の往復、月面での滞在に特化した設計に変更されているものの、スターシップの特徴である巨大な機体はそのままであり、他社の提案に比べ、はるかに大量の人員や物資を運ぶことを可能としている。

NASAのジム・ブライデンスタイン長官はこの選定時、スターシップに対して「他社の提案とはまったく異なるソリューションだが、ゲーム・チェンジャーとなる可能性がある。私たちはその可能性を軽視したくない」と期待を語っている。

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    打ち上げられるスターシップの想像図。前半分がスターシップで、100トン以上の物資、もしくは100人の乗客を乗せることができる。下部にはスーパー・ヘヴィと名付けられたブースターを装備している (C) SpaceX

参考文献

SpaceX - Starship
Starship SN5 conducts successful 150-meter flight test - NASASpaceFlight.com
Elon Muskさん (@elonmusk) / Twitter