米国航空宇宙局(NASA)は2020年7月30日、新型の火星探査車「パーサヴィアランス」の打ち上げに成功した。
火星到着は来年2月の予定で、過去の生命活動の痕跡の探査や、火星の岩石を持ち帰るための準備、さらにはヘリコプターの飛行など、数々の史上初のミッションに挑む。
パーサヴィアランスを積んだ「アトラスV」ロケットは、日本時間7月30日20時50分、米国フロリダ州にあるケープカナベラル空軍ステーションから離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから57分32秒後に探査車を分離。予定どおりの軌道へ投入した。
その後、22時15分には、探査車からの最初の信号の受信にも成功した。その直後、機体の一部の温度がやや低い状態となり、一時的に機体を安全な状態に置く「セーフ・モード」に入ったものの、のちに正常な状態に戻っている。
NASAによると、トラブルの原因は、探査車が地球の影に入った際の温度が、あらかじめ想定していた温度より低かったためであり、探査機の機能や今後のミッションへの影響はないという。
パーサヴィアランスは今後、約7か月間の宇宙航行を経て、2021年2月18日に火星の大気に突入、地表への着陸を目指す。
生命の痕跡を探すパーサヴィアランス
パーサヴィアランスはNASAジェット推進研究所(JPL)が開発した火星探査車で、火星に過去に存在したかもしれない生命の痕跡を探し出し、さらに将来の火星探査に役立つ先進的な技術を実証することを目的としている。
パーサヴィアランス(Perseverance)とは「忍耐力」や「不屈の精神」といった意味で、米国の子どもを対象にした募集と、世界中からの投票を経て選定された。
打ち上げ時の質量は約4000kgで、そのうち探査車自体は1025kgを占める。その車体は、2011年に打ち上げた火星探査車「キュリオシティ」のものをベースにしており、全長は3.0m、全幅2.7m、高さ2.2m。電力は放射性同位体熱電気転換器(RTG)で生成し、6輪の車輪で火星を駆ける。
ただ、搭載している観測機器はまったく変わっており、探査車の質量は126kgも増えている。それにより、航行段や着陸装置にも改良が加えられている。さらにキュリオシティの運用でつちかったノウハウを活かし、車輪などに改良も加えられている。
パーサヴィアランスは今後、約7か月かけて宇宙を航行したあと、2021年2月18日に火星の大気に直接突入する。そしてパラシュートを展開して降下したあと、キュリオシティと同じく「スカイ・クレーン」と呼ばれる、逆噴射ロケットを装備した着陸装置で、地表に軟着陸する。
パーサヴィアランスが着陸を目指すのは、火星の赤道のやや北にある、「イェゼロ・クレーター」というところである。このクレーターは、火星の特徴的な黒い模様のなかで最も大きくわかりやすい「大シルチス」のなかにあり、直径は49kmと見積もられている。
ミッション期間は1火星年(2地球年)が予定されている。
パーサヴィアランスには次のような、大きく7種類の観測装置が搭載されている。
- PIXL(Planetary Instrument for X-Ray Lithochemistry):火星の表面の物質の、微細な元素組成を調べる蛍光X線分光装置。これまで以上に詳細な化学元素の検出と分析を可能としている
- RIMFAX(Radar Imager for Mars' subsurface experiemnt):地中を撮像するレーダー
- MEDA(Mars Environmental Dynamic Analyzer):大気の温度や風速、風向き、気圧、相対湿度、ダストの大きさや形状を調べるセンサー
- MOXIE(Mars Oxygen ISRU Experiment):火星の大気中に含まれる二酸化炭素から酸素を生成するための実験装置
- SuperCam:離れた場所から岩石や砂(レゴリス)の撮像や、化学組成の分析、鉱物学的な分析を行う装置
- Mastcam-Z:ズーム機能を備えたパノラマ・立体視カメラ。火星の表面の鉱物学的な状態を把握し、探査車の運用を支援する
- SHERLOC(Scanning Habitable Environments with Raman and Luminescence for Organics and Chemicals):分光計、レーザー、カメラを使用して、微細な撮像や鉱物組成の調査、そして有機化合物や過去の微生物の痕跡を検出することを目指す
このなかで最も大きな注目を集めているのが、過去の生命活動の痕跡を調査することができるSHERLOC(シャーロック)である。
パーサヴィアランスが探査するイェゼロ・クレーターは、かつては湖、または扇状地だったと考えられており、そこに溜まった堆積物に、生命の痕跡が眠っている可能性が期待されている。シャーロックはまさに、その名の由来となった名探偵のように、この地から過去の火星に生命がいた痕跡を見つけることを目指している。ちなみに、その装置のひとつのカメラには、ワトソン(WATSON)という名前がつけられているところがとてもニクい。
これまでも、NASAなどの火星探査機が火星における生命の有無について調べてきたが、従来は主に水の痕跡や、水によって生まれた鉱物、あるいは生命体を構成しうる物質を調査するなど、生命体そのものに焦点を置いたものではなかった。だがパーサヴィアランスは、いよいよこの問題に真っ向から取り組もうとしている。
NASA科学ミッション本部のトーマス・ザブーケン(Thomas Zurbuchen)副本部長は、「イェゼロ・クレーターは、古代の生命の痕跡を探すのに最適な場所です。パーサヴィアランスによって、過去の火星がどのようなものであったのかを知り、そして今日の火星の理解を覆すような大きな発見をすることができるでしょう」と期待を語る。