2020年3月に経営破綻した宇宙インターネット「ワンウェブ」について、同社は2020年7月3日、インドの移動体通信大手バーティ・グローバルと英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省からなるコンソーシアムによって買収されたと発表した。

これによりワンウェブは、衛星コンステレーションの構築を続けるための資金を獲得。また英国政府は、EU離脱によってアクセス権を失った衛星航法システム「ガリレオ」の代わりに、"英国版GPS"としても利用することを目指すという。

  • ワンウェブ

    ワンウェブの模式図。地球を覆うように多数の衛星を打ち上げ、地球のあらゆる地域に、高速かつ低遅延のインターネットを提供することを目的としている (C) Airbus D&S/OneWeb

復活のワンウェブ

ワンウェブ(OneWeb)は2012年に設立された企業で、約4万8000機もの衛星を打ち上げ、全世界にブロードバンド・インターネットのサービスを提供することを目指している。

同社はこれまでに、ソフトバンクグループなどから総額約30億ドルを調達し、2019年2月には、試験機となる衛星6機の打ち上げに成功。今年2月と3月にもそれぞれ34機の衛星を打ち上げていた。また、地上局の一部も完成し、400Mbpsを超える通信速度と、32msの小さなレイテンシ(遅延時間)をもつブロードバンド・システムの実証実験に成功している。

しかし、今年に入ってから、事業の継続に必要な新たな資金調達に失敗。同社は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に関連した財務上の影響や市場の乱高下により、資金調達プロセスが停滞したため」と説明している。

これを受け、同社は3月、米国破産法第11章(チャプター11)の適用を申請した。

チャプター11は日本の法律における民事再生法に近いものであり、同社では売却を検討していた。また5月には、それまで約650機の衛星でサービスを展開するとしていたところを、約4万8000機にまで増やすことを米連邦通信委員会(FCC)に申請している。

そして7月2日、買い手を探す入札が行われ、その結果、インドのバーティ・グローバル(Bharti Global)と英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省のコンソーシアムが落札した。落札額は10億ドルで、両者がそれぞれ5億ドルを出資したという。運営権はバーティがもつ。

買収にあたっては、米国の裁判所の承認と規制上の手続きが必要としているが、年内にも完了するとしている。

ワンウェブのCEOであるAdrian Steckel氏は「この買収は、システムに大きな可能性があることを裏付けるものです。COVID-19のパンデミックにおいて、インターネットの需要は高まっており、また緊急性が高まっています。できる限り早く買収プロセスを完了し、衛星の打ち上げに戻りたいと思います」と述べている。

同社は声明で、この買収で衛星コンステレーションの構築を完了することができるようになるとしている。なお、今後打ち上げられる衛星の数については、当初予定していた約650機なのか、それともその後申請した約4万8000機になるのかは明らかになっていない。

バーティ・グローバルは、移動体通信においてインド最大手の電気通信事業者バーティ・エアテルをグループ内にもつ。同社はアジアやアフリカにも進出し、世界で3番目に大きい携帯電話事業者でもある。バーティ・エアテルはまた、ワンウェブにも初期から参画し、出資も行っていた。

同社は買収の目的について、「(世界各地の)貧困層や、インフラが整っていない農村部に、高速で低遅延のブロードバンド・インターネット・アクセスを提供することで、デジタル・ディバイド(情報格差)の減少に貢献する」としている。

  • ワンウェブ

    ワンウェブ衛星の想像図 (C) OneWeb

英国版GPSの機能追加の可能性も

一方英国側は、ワンウェブを通じ、新しい衛星技術の研究や開発、製造のパイオニアになるという政府の野心を叶えるとしている。また、これまでワンウェブの衛星は、フランスと米国で製造されていたが、ビジネス・エネルギー・産業戦略省は「高度な製造拠点をさらに発展させる」としており、衛星の製造が英国に移る可能性もある。

同省はまた、「国家安全保障上の理由から、将来のワンウェブの売却や、他国からのワンウェブの技術への将来のアクセスについては、英国政府が最終的な決定権を持つ」としている。

なお、フィナンシャル・タイムズ紙やタイムズ紙は、ワンウェブ衛星に測位信号を出す機能を追加し、"英国版GPS"としても利用する狙いがあると報じている。

英国は、欧州連合(EU)が運営する衛星測位システム「ガリレオ」計画に参画していたが、英国のEU離脱により、同計画の意思決定や、安全保障(軍事)用に暗号化された高精度の信号の利用から排除されている。それを受け英国は、独自に衛星測位システムを構築することも視野に、代替案を模索していた。

英国政府の今回の声明では、衛星測位システムとしての利用については、具体的には触れられていない。

あくまで技術的には、かつて米国がGPS衛星以前に構築した「トランシット(Transit)」のように、高度1200kmの低軌道衛星でも衛星測位を実現することは可能であると考えられ、英国にとっては検討に値する話であるとみられる。

ただ、宇宙インターネットは、ワンウェブ以外にもスペースXが「スターリンク」と呼ばれるシステムの構築に挑んでいるほか、アマゾン(Amazon)やフェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)も参入を目指しているとされる。とくにスターリンクは、すでに約600機の衛星の打ち上げに成功しており、今年末にもサービスが始まる予定となっている。

こうした状況で、ワンウェブが生き残れるかどうかは不透明である。英国版GPSの機能を追加することは、宇宙インターネットを含めたワンウェブ全体の実現性や、サービスの安定性を高める可能性があるが、その一方で、ワンウェブが宇宙インターネットの市場で苦戦することになれば、英国版GPSも危うくなる可能性もある。

はたして一石二鳥となるのか、それとも二兎を追う者は一兎をも得ずとなるのか、今後の行方に注目される。

参考文献

OneWeb announces HMG and Bharti Global Limited consortium as winning bidders in court-supervised sale process | OneWeb
UK government to acquire cutting-edge satellite network - GOV.UK
Airtel Selects IBM and Red Hat to build Open Hybrid Cloud Network
OneWeb Seeks to Increase Satellite Constellation Up to 48,000 Satellites, Bringing Maximum Flexibility to Meet Future Growth and Demand | OneWeb