一気に進んだオンライン化とニューノーマル定着の分岐点

新型コロナウイルス感染による影響で、人々の生活はオンラインが中心となりつつある。オンライン会議、オンラインセミナー、オンライン授業、オンライン医療、オンライン飲み会、等々、リアルな対面コミュニケーションからネットを介したバーチャルな世界での生活に一気に変わった。さらには大規模イベントも次々と中止された結果、オンライン国際会議、オンライン展示会などのバーチャルイベントへのシフトも始まっている。日本では今年秋頃まではこの状態が続き、アメリカでは来年半ばまで大規模展示会などのリアル開催は見込めないと言われている。この状態は、ニューノーマルとして定着するのだろうか。今後の状況を占う事例が、感染の最初の拡大地である中国である。

中国では、感染が急拡大した今年2月頃以降、一気にオンライン化が定着した。人々の生活はもとより、ビジネスの世界でもオンライン会議が直ぐに立ち上がり、業界の横串にしたオンライン会議やオンラインセミナーで多くの情報がネット上で共有されるようになった。

参考:「コロナショックを早くも特需に変えつつある、中国電子情報産業の恐るべき対応力」(日経XTECHテクノ大喜利、2020.03.19、北原洋明)

筆者が関わるディスプレー産業でも、2月中旬から各地でオンラインセミナーが始まった。様々なディスプレー技術をテーマとした最先端の情報共有を行う内容であり、直近の6月中旬までに主要なものでも30以上の会議が開催されており、最近では異なる主催社の会議が日々連続して開催されることも珍しくない。

一方で、中国はこれまでに新型コロナウイルスの感染を押さえ込んだとされ、人々の生活も元に戻り始めている。さらに中止や延期となっていた大規模なリアルイベントも再開の動きを見せ始めている。6月に入り、大規模な展示会イベントも中国各地で再開されはじめ、3月から延期された「SEMICON China/FPD China」が6月27日から29日にかけて上海で開催された。7月には中国で最大のディスプレー会議である「Display Innovation Convention & EXPO(DIC2020)」も上海でリアル開催される予定である

自粛期間中にオンラインで力を蓄えた中国ディスプレー産業

産業界の人々が新技術の開発や産業の発展に傾ける熱意はオンラインの世界でも変わらない。事例として、多くのオンライン会議の中でもSID Chinaが主催したオンライン会議を紹介する。

SID(Society of Information Display)は、毎年北米大陸でディスプレーの世界最大のイベントであるDisplay Weekを開催する世界的な組織である。アジア地域ではSID日本支部から始まり各国・地域にSIDの支部が設けられて活動している。中国でもSID Chinaが中国ディスプレー産業の急速な発展を背景にして、ここ数年その活動を活発化させている。新型コロナ自粛期間中にも、12回のオンライン会議を開催し、中国各地から多くの視聴者が参加し、最先端のディスプレー情報を共有した(図1)。

  • SID China

    図1 中国で開催されたディスプレーオンライン会議。SID China主催で12セッションが開催された。聴講者数はセッションによって異なるが、毎回100~260人が聴講していた(主催側の公表数値)

再開するリアルイベントで産業発展の再加速を目指す

中国でのオンライン会議の事例としてもう1つ紹介する。5月18日に中国・固安を発信ベースとした「グローバルディスプレー産業春季業界動向発表会」がオンライン会議として開催され、8000人を超える多くの業界関係者が視聴した(図2)。

本会議は、中国液晶分会が主催し、韓国ディスプレー産業協会、国際半導体産業協会(SEMI)、中国電子視像行業協会、中国電子材料行業協会、中国OLED産業連盟、中国光学光電子行業協会液晶分会の各業界組織の代表による講演とその後のパネルディスカッションが行われ、新型コロナウイルスの感染拡大によるディスプレー業界への影響分析と今後の業界の方向性を示すものであった。

本会議では、新型コロナ禍に対してディスプレー産業として対応した意義を踏まえ今後の産業発展を再加速させる意気込みが感じられた。具体的には、自粛していたリアルイベントの再開を目指す動きである。中国液晶分会が主催する国際会議と展示会Display Innovation Convention & EXPOを上海で7月にリアル開催する雰囲気が、この会議で形成された。

現在、世界中で生活のオンライン化が進み、新型コロナ後のニューノーマルとして定着するという見方もある。ディスプレー関連のイベントに関しても、米国SIDは当初今年の6月にSan Franciscoで開催される予定であったが、一旦8月に延期され、さらにオンライン開催となることがすでに告知されている。米国では来年半ばまでリアルイベントの開催は出来ないとも言われている。日本でもCEATECを始め主要なイベントのリアル開催は見送られており、当面はオンライン開催がベースとなっていくだろう。

しかし、人々の生活すべてをオンラインでまかなうことは不可能であり、リアルな生活を待望する声も日増しに高まっている。経済とのバランスを考え、リアルな活動を再開する動きも見られるが、その判断は新型コロナウイルスの感染拡大をきちんと押さえ込めるかどうかにかかっている。このような状況の中で、今回の中国のリアルイベントへの回帰の動きの成否が今後の世界の産業の方向を占う重要な指標になるだろう。

  • グローバルディスプレー産業春季業界動向発表会

    図2 ディスプレー産業のオンライン会議「グローバルディスプレー産業春季業界動向発表会」のプログラムと会議風景。スタジオ収録映像によって進行。日本語、英語、韓国語の同時通訳もあり、主催社公表数値で中国語聴講者が7125人、日本語聴講者が822人、韓国語視聴者が246人、英語視聴者が564人で合計8757人が視聴した。スタジオでの映像は主催提供

筆者注:本記事中の新型コロナウイルスの影響に関する内容は、2020年6月末までの情報に基づいており、今後の状況によっては内容が大きく変わることもある。

著者プロフィール

北原洋明(きたはら・ひろあき)
テック・アンド・ビズ代表取締役

2006年12月より、テック・アンド・ビズを立ち上げ、ディスプレー、LED、太陽電池、半導体などの電子デバイス関連の情報サービス活動、ビジネスマッチング等の活動を行っている。
製造拠点および巨大な市場であるアジア各地の現地での生情報を重視し、日系企業の海外ビジネス展開をサポートしている。
中国光学光電子行業協会液晶分会顧問、中国深圳ディスプレー協会専家顧問を務め、その他の中国・台湾・韓国の業界組織とも連携をとりながら日系企業の現地での活動支援、セミナー・展示会などのイベント開催、企業訪問アレンジ等も行っている。
直近の活動としては、2020年7月8日に【日中電子産業 BIZ Forum、第一回 アフターコロナのディスプレー産業】をオンライン開催する予定。日本および中国の講師が、ディスプレー産業の現状とコロナ後の方向を示す。