インターステラテクノロジズ(IST)は6月14日9時より記者会見を開催、同日早朝に実施した観測ロケット「MOMO5号機」の打ち上げ結果について説明した。同ロケットは5時15分の打ち上げ後、順調に上昇を続けたものの、姿勢の乱れが安全基準を超えたため、飛行の継続を断念、70秒後に緊急停止コマンドを送信し、エンジンを止めた。

  • MOMO5号機

    打ち上げ直後の観測ロケット「MOMO5号機」(C)IST

打ち上げ後、MOMO5号機に何が起きた?

まだ速報値であるものの、到達した最高高度は11.5km。目標である高度100kmの宇宙空間に到達するためには、120秒間の燃焼が必要なのだが、ほぼ半分程度の燃焼時間となってしまったため、大幅に届かなかった。機体はそのまま自由落下し、5時18分52秒に、射点から4km沖合の海上に落下したことが確認された。

これまでのMOMOの打ち上げ結果は以下のとおり。

  • 初号機(2017年7月30日打ち上げ):到達高度 20km
  • 2号機(2018年6月30日打ち上げ):到達高度 0.02km
  • 3号機(2019年5月4日打ち上げ):到達高度 113.4km
  • 4号機(2019年7月27日打ち上げ):到達高度 13.3km
  • 5号機(2020年6月14日打ち上げ):到達高度 11.5km

今回の失敗の原因について、詳細は今後の分析を待つ必要があるものの、現時点で分かっているのは、飛行中にノズルが破損したらしい、ということだ。異常が映像で確認できるのは、打ち上げの36秒後あたり。ISTが公開したオンボードの映像を見ると、機体後方から、火花のようなものが飛散している様子が分かる。

MOMO5号機の飛行映像とオンボード映像

飛行映像とオンボード映像。左上のカウントは12秒ほどずれているので注意 (C)nvs-live.com、IST

ただ、ロケットはその後も問題なく飛行を続けているように見えたものの、50秒過ぎから姿勢がふらつき始め、65秒くらいで完全に制御できなくなった。司令所から緊急停止コマンドが出されたのはこの直後と見られる。なお機体が落下したのは海上の警戒区域内であり、安全上の問題は無かった。

MOMO3号機とMOMO5号機のオンボード映像比較

成功した3号機と今回の5号機のオンボード映像の比較 (C)IST

原因を究明する上で幸いだったのは、着水まですべての飛行中のデータが正常に取得できていたことだ。同社の稲川貴大・代表取締役社長は、「打ち上げ後の数時間で、ある程度の原因究明と対策まで見えた。6号機の製造も進んでおり、次に向けて前向きな状態」と、現在の心境を述べる。

得られたデータの中で異常を示していたのが、ジンバルの制御角だ。MOMOはピッチ軸/ヨー軸の姿勢制御を、ジンバルによる推力方向制御で行っている。しかし、飛散が見られた36秒後あたりより、この角度に2~3度の変化があったそうだ。

もしノズルが破損すれば、燃焼ガスの噴射が乱れ、推力方向もズレる可能性が高い。すると、姿勢を戻すために、ジンバルが角度を変えることになるので、得られたデータとは辻褄が合う。この前後において、エンジンの燃焼圧に変化は見られなかったそうなので、スロート部までは無事で、破損したのは下流側のどこかと考えられる。

  • MOMO5号機

    MOMOのノズル。ここから燃焼ガスを噴射することで推力を得ている (C)IST

ジンバルの制御角は、最大で8度。まだ余裕があったため、異常発生後も、しばらくはジンバル制御で姿勢を維持できていた。しかしその後、空力負荷が最も大きくなる「Max Q」(動圧最大点)付近で限界を超えると、機体は完全にバランスを失い、飛行の継続が不可能となった。

この要因の1つとして考えられるのは、上空のジェット気流が強かったことだ。前日の延期の原因となった風速(70m/s以上)ほどでは無かったにしても、当日の高度10~12kmあたりでは、依然として40~50m/sの強風が吹いていたと見られる。通常の制御能力であれば問題無かったが、能力が低下している状態では対抗しきれなかった。

今後の対策と打ち上げ再開の見通し

今のところ、ノズルの破損が強く疑われる状況であるが、破損の原因については不明。ノズルの形状や材質は初号機からまったく同じで変更は無く、これまでの試験において、同様に破損した事例は無かった。なお、ノズル以外の問題については、今のところ何も確認されていない。

  • MOMO5号機

    問題となったあたりのオンボード映像。ノズルの破片が飛散したと見られる (C)IST

MOMOで使われているノズルはグラファイト製で外注品。今後、対策としては品質確認の強化を考えているという。従来は目視検査のみ行っていたが、さらに追加で何か非破壊検査を実施するようなことも考えたい、とした。

稲川社長は「対策は数週間程度というスピード感でやっていきたい」とコメント。「ロケットは輸送業。高頻度にスピーディに打ち上げていくことを目指しており、その方向性については継続して、前向きに取り組んで行く。我々は宇宙を身近なものにしたいと考えている。ここは今後もブレることはない」と、意気込みを述べた。

同社は現在、社員の数を積極的に増やしているところで、短期間で機体を製造できる体制が整いつつあるという。次の機体の製造もすでに開始しており、「近々記者会見で発表できる予定」とのことだ。

  • MOMO5号機

    同社ファウンダーの堀江貴文氏(右)と、代表取締役社長の稲川貴大氏(左)

また同社ファウンダーの堀江貴文氏は、今回の打ち上げについて、「打ち上げの実施能力は確実に向上している」と評価。「これまであった運用面のミスや遅延はなく、今回は完璧にできていた。同じ失敗を繰り返さないという点についてはレベルアップしており、現場でも安心して打ち上げまで見ていられた。次回は期待できる」とした。

今回の失敗は事業的には大きな痛手ではあるものの、「MOMOの進化型や次世代機ZEROの開発も進んでおり、まだまだ人手と資金が足りない」と指摘。「私は人材確保、マーケティング、資金調達で頑張って、次の打ち上げが成功できるよう、側面からバックアップしていく」と、前を向いた。