奥谷氏は、“アフターコロナ”と言われる新時代において、企業活動にとってはデータを活用した顧客理解と並んで「消費者との共感づくり」が重要になると指摘する。

例えば、新型コロナウイルスの感染が拡大するなかで、世界中の企業がソーシャルディスタンス確保やステイホームを啓蒙するためにロゴを工夫したり、化粧品メーカーが石鹸や消毒液を寄付したり、酒造メーカーが消毒用アルコールの製造を始めたりといった取り組みを開始した。オイシックス・ラ・大地でも、医療関係者や生産者を支援するためのさまざまな企画を立ち上げている。白石氏が紹介した消費者の行動変化を受けて、企業は“アフターコロナ”の時代にどのようなマーケティングの在り方を目指すべきなのだろうか。

白石氏は、さまざまなデータによる消費行動の変化を踏まえて、「日常生活の変容による“巣ごもり消費”の顕在化」「社会情勢の変化に伴う買い物の質の移り変わり」「高年齢層のEC利用への“デジタルシフト”の兆候」という3つの大きな潮流を指摘。

これを受けて奥谷氏は、「買い物の質の変化に注目したい。今後、消費行動の一部は“コロナ以前”の状態に戻るかもしれないが、ステイホームが定着してリモートワークの環境を整えていくと、会社に出勤していた“コロナ以前”に戻る意味がなくなる可能性もある。ステイホームによって注目された商品・サービスやそこから生まれた新たな購買行動は今後成長のチャンスがあるのではないか」と指摘する。ライフスタイルが根本から変化したことによって新たな需要が顕在化し、消費者の“モノ”に対する要求が変化しつつある。ここに新たなビジネスの芽があるというのが、奥谷氏の見方だ。

この意見に対して、白石氏も「在宅勤務という今までにないワークスタイルが一気に普及して、プライベートの消費でもオンライン購入の利便性を実感できた人が多かったのではないか。リアルでの購買行動が戻ってきたときに、デジタルチャネルの状況にどのような変化が生まれたのかは注目していきたい」と続ける。コロナ禍による社会の変化が、消費行動がリアルからデジタルへと本格的にチャネルシフトするきっかけとなったのかは、今後明らかになっていくだろう。

一方、高齢者のEC利用へのチャネルシフトについて、奥谷氏は「今後はEC利用が高齢者の感染リスク軽減につながることも考えられる。高齢者にとって使いやすいUXになっているか、安全・安心に買い物ができる環境が担保できるかといった点は重要なテーマになる」と指摘。チャネルシフトが進むということは、決済手段は現金からキャッシュレスへと変化が加速することも意味する。そこでの利便性や安全性の担保、そしてキャッシュレス決済によって生まれたデータの有効活用が重要になるのだ。

なお、今回データを公表した白石氏は、今後奥谷氏と共同で「段階的な緊急事態宣言発令による地域別消費行動の変化」「世代別生活者インタビュー」「感染前、感染期、感染後の動きから見える“ウィズコロナ”“アフターコロナ”時代の消費行動の新たな兆し」といったテーマで分析・研究を行っていくという。