中国の半導体への投資活動に復活の動き

中国では新型コロナウイルスの流行が緩和の兆しを見せはじめる中、同国政府が感染の終息を待たずに自国の半導体産業強化策を打ち出そうとしていると台湾や中国の複数のメディアが報じている。

それらによると、中国の半導体チップの自給率を高めるために設立された国家集積回路産業投資基金(通称:ビッグファンド)は、2019年10月に第2期基金を立ち上げ、投資準備を進めていたものの、今回の新型コロナウイルスの発生で実際の投資活動に遅れが出ていたという。それがまもなく、当該プログラムの実行を開始し、中国内の半導体デバイスメーカーおよび関連業界の企業に資金の提供を行おうとしているという。具体的には湖北省武漢の複数の半導体企業に重点配分するほか、半導体の自給自足に必要な半導体製造装置メーカーやテスト装置メーカーにも重点投資すると一部のメディアが伝えている。

投資金額としても、2019年10月に第2段階基金が発足した時点で約290億ドル相当の資金が中国中央政府財務省や地方政府その他から集まっており、これは第1期の2倍の規模で、出資者も第1期の9組織から27組織(中央政府財務省、中国開発金融、上海国生、中国たばこ会社、中国電信ほか)に増えているとする。

新型コロナウイルスの感染拡大の中でも半導体製造を重視した中国政府

中国内の半導体デバイスメーカー各社は、中国の資本であるか外資であうかは問わず、旧正月(春節)の長期休暇中もその後の新型コロナウイルスの感染拡大の最中も、中国政府の半導体産業最重視の方針によりほぼ正常な稼働を続けてきたと、海外メディアやIHS Markit、TrendForceといった市場調査会社などが伝えていた。

とりわけ、武漢にある清華紫光集団傘下の3D NAND専業メーカーであるYMTCおよびその子会社XMCは、武漢が都市封鎖し、住民の外出禁止命令が発令の中にあって、中央政府から特別の許可を受け、作業員の通勤、資材搬入、製品出荷がほぼ支障なく行え、クリーンルームでの作業もほぼ正常に作業できていたと伝えられている。

旧正月で湖北省外に出ていた技術者も中央政府の特別許可で、移動制限を例外的に解除され工場に早急に戻れたとも言われており、中国政府が、武漢での新型コロナウイルスの拡大に向け、個人や一般企業にさまざまな厳しい規制をもうけ、対策が不十分な首長らを解任するなどブレーキを踏む一方で、国策として半導体工場を正常に稼働させるためのアクセルも踏んでいたことになる。いずれの報道も、封鎖されていた湖北省や武漢で実際に取材することはできず、半導体各社からのメールや電話による返事をそのまま伝えているだけで、中央政府からどのような指示があり、どのような状態で稼働したかは全く聞こえては来ない。

清華集団はNANDに続きDRAMの参入も目指すも苦戦

YMTCは現在、64層の3D NANDを製造中だが、今後96層をスキップして128層の生産に移行し、2020年以降、一気にSamsungやキオクシアなどライバルに追い付く作戦を立てている。

習近平主席の出身大学である清華大学傘下の紫光集団は、YMTCによるNAND生産に続いて、DRAM生産にも参入しようとして準備を始めている。元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏を「高級副総裁(上級副社長に相当)に抜擢し、神奈川県川崎市に新設した紫光集団の子会社で日本人の半導体技術者のリクルートにあたらせている。しかし、現在の日本でDRAMエンジニアをリクルートするのは困難であろう。

清華紫光集団自身は、DRAMの最新製造技術を所有しておらず、かつて米Micron Technologyを買収して技術を入手しようとしたが米国政府ににらまれて失敗し、トランプ大統領の現政権下では、米国のみならず日本はじめ海外からの技術導入は事実上不可能で、先行企業の特許でがんじがらめの中で後発組としてDRAM事業参入はそう簡単ではない。

半導体自給自足を目指す「中国製造2025」実現はまず不可能

「中国製造2025」によると、中国は半導体デバイスの自給自足体制を敷くため、2025年には半導体デバイスの中国市場での消費量のうち国内調達比率を7割にまで上げるという目標を掲げているが、米国の半導体市場調査会社IC Insightsは、「2013年に12.6%、2018年に15.3%だった中国の国内調達率は2023年になっても20.5%程度に留まると予測しており、2025年に国内調達率70%は達成できない」と述べている。ほかの半導体調査会社も同様な見方をしており、中国政府が、国内経済が疲弊していく中、想像を絶する巨額投資や予想しえなかった国際的な大型技術提携でもしない限り目標達成は無理との見方が有力である。中国政府が半導体製造力を急成長させるためにどのような戦略を打つか注目されている。