東京大学(東大)とジャパンディスプレイ(JDI)は1月21日、高空間解像度と高速読み出しを両立させた曲がるシート型イメージセンサを開発し、指紋・静脈・脈波の同時測定が可能であることを確認したと発表した。
同成果は、東京大学大学院工学系研究科の横田知之 准教授、同 染谷隆夫 教授、JDI R&D本部 デバイス開発部 デバイス開発課の中村卓 課長、JDI R&D本部 シニアフェローの瀧本昭雄氏らによるもの。詳細は「Nature Electronics」(オンライン版)に掲載された。
今回開発されたシート型イメージセンサは、JDIの有する低温poly-Si(LTPS)技術を活用して第6世代(G6)ガラス基板上にTFTを形成。その上に有機半導体技術による光検出器を集積。最終的にレーザー・リフト・オフ(LLO:Laser Lift Off)法を用いてガラス基板から剥離させ、用途に応じて広範な面積をカバーするセンサを実現したというもの。従来、TFTの上に有機半導体層を形成しようとすると、プロセス温度や有機溶媒がTFTへのダメージとなっていたが、低温プロセスの開発やよりダメージの少ない有機溶媒へと変更を加えることで集積化を果たしたという。
実際の研究開発のスタートから今回の成果まで約2年半ほどかかったとするが、その性能仕様は1.26cm×1.28cmの面積で厚さ15μm、解像度508dpi、読み出し速度41fps、静脈認証などに用いられる波長850nmの近赤外光に対する外部量子効率0.5(50%)以上を達成したという。解像度は一般的な指紋認証システムで必要とされる値が500dpiということでそれを上回る値を実現しているほか、静脈認証の精度もCMOSイメージセンサを用いた場合と比べて5%以内の誤差率を実現したという。
JDIによると、今後の課題は量産技術の確立と信頼性の向上だとしている。研究開発で進められてきた有機光検出器の製造レシピそのものは完成度が高いため、すでに量産に向けた試作も進められているとするが、まだまだ製品としての劣化試験などに対する作りこみを行っていく必要があるとするほか、活用できるアプリケーションの開発も必要となってくるため、それも併せて進めていくとしており、「市場の問題もあるが3年以内の製品化が目標。実際は、試作、中規模生産、大規模生産と移行していくので、3~5年程度が現実的な見通しではないか」とJDIの瀧本シニアフェローは製品化に向けた見通しを語る。
また、技術的には今回の指紋や静脈、脈波以外にも近赤外光を活用したヘルスケア機器なども出てきており、将来的にはそうした分野にも応用発展を図っていくことも期待されるとしている。
ちなみに量産時は、JDIの第6世代(G6)ガラス基板を活用できるため、高コストになるといったことはあまり考えられないという。また、センサ部分の周辺にはLTPSを活用したさまざまなCMOS回路も形成しているとのことで、高性能が求められるアナログ・フロント・エンド(AFE)部分は外部に出す必要があるが、それ以外の回路はなるべくセンサ周辺に盛り込むことで、さらなるコスト削減も図っていきたいとしている。
なお、15μmという薄さのためフレキシブルな使い方もできるが、最初はスマートウォッチのような硬い部分と柔らかい部分を組み合わせたような使い方からスタートして、実績などを積み重ねていくことで、だんだんと材料を柔らかいものに変更していったり、安価なゴムバンドにしていったりといったことも考えられるようになると研究チームでは考えているという。